産業機器向け無線フィールドバスを二分する「WirelessHART」と「ISA100.11a」:IoT観測所(49)(3/3 ページ)
産業機器に用いられているフィールドバスのうち、無線対応の規格では「WirelessHART」と「ISA100.11a」が市場を分け合っている。市場に浸透した理由を含めて、これら2つの規格について解説する。
「WirelessHART」と似ているが全く違う「ISA100.11a」
このWirelessHARTとよく似た、ただし全く違う規格がISA100.11aである。こちらはInternational Society of Automation(国際計測制御学会)という、1945年に設立された由緒ある学会が主導するものである。
名前の通りさまざまなオートメーション技術の研究や標準化を行っている学会だが、このISAが2005年から標準化作業をスタートさせたのがISA100である。ISA100は、実際には図3のように複数の規格がある。生産設備の現場で使われるのがISA100.11a、無線基幹ネットワークがISA100.15、高信頼性ネットワークがISA100.14、作業員や設備の追跡/認識を行うものがISA100.21、さらにはWirelessHARTとISA100.11aの混在ネットワークがISA100.12として番号付けされている。
ISA100の目的は、有線接続では特に接続数が多くなると配線が壊滅的に大変になるが、その一方で適切な無線接続の規格が(2005年当時に)見えてなかったことがある。国際計測制御学会、という名前の通りターゲットは産業機器とか計測機器で、こうした機器に利用するために当時の無線接続の規格では信頼性とか利用環境が適していなかったから……というわけで、自身で適した規格を制定する動きになった形だ。
さて、そのISA100の取っ掛かりが、まずはISA100.11aということになる。ISA100.11a自身は物理層にIEEE 802.15.4を利用しており、また接続形態としてメッシュとスターをサポートする。このあたりは完全にWirelessHARTと同じである。ただしネットワーク層は6LoWPANを採用、アプリケーション層はISA100.11a Native&Legacyという形になっている。こちらは2014年にIEC 62734として標準化も完了している。
インストールベースという意味では、WirelessHARTにまだちょっと水をあけられているISA100.11aだが、逆にISA100.11aならではのメリットも少なくない。まずはISA99(サイバーセキュリティ管理システムの構築の標準)との連携やETSI 300.328 v1.8.1(EUの定める2.4GHz帯における電波干渉に関する要件)への準拠、そして他のプロトコルとの親和性だ。
先にアプリケーションはISA100.11a Native&Legacyと説明したが、これは基本トンネリングで、要するに他のプロトコルをそのままトンネリング可能である。このため、ネットワークはISA100.11aを使いつつ、上位プロトコルとしてPROFIBUS、Foundation Fieldbus、Modbus、HARTなどの既存のFieldbus Protocolをそのまま利用できる。現実問題として、HARTにISA100.11aを使うのはあまり現実的ではないとは思うが、それ以外のFieldbusをISA100.11aを使ってそのまま無線化できるので、こちらはHART以外のFieldbusを利用しているユーザーにメリットが大きい。このあたりは逆にWirelessHARTではまねができない部分だ。
これは通信方式にも反映されており、例えばWirelessHARTの通信方式はCommand&Response(要するにマスター/スレーブ)+バーストモードだが、ISA100.11aはパブリッシュ/サブスクライブ、アラート、クライアント/サーバ、バルクと多様な方式が選べるとか、データリンク層ではWireless HARTがTDMA(時分割多元接続)のみで干渉防止はSlot Hopping(タイムスロットベースのチャネルホッピング)、タイムスロットは10ms固定とされるのに対し、ISA100.11aではTDMAに加えCSMA/CD(搬送波感知多重アクセス/衝突検出)を選ぶことが可能で、タイムスロットは設定変更可能。また、Slot Hoppingに加えてSlow Hopping(タイムスロットごとにチャネルを変えるのではなく、より長い周期で変更する)をサポートするなど、柔軟性が高い。
このあたりは、多くのプロトコルに対応することを念頭に置いたISA100.11aと、HARTだけを考えれば良いWirelessHARTで要件が異なるから、多ければいいというわけではないが、とはいえこのカバー範囲の広さは他のプロトコルの追従を許さない。
こうした結果、いわゆる産業機器向けIoT(インダストリアルIoT、IIoT)の市場で利用される無線プロトコルの大半をこれら2つが占めているというのが現状である。冒頭で少し触れたSmartMesh IPなどの新参プロトコルがこの2つの牙城を崩すのは、ちょっと容易なことではないだろう。
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