検索
連載

日本がSociety 5.0を実現するために解決すべき課題とは何か経済財政白書2018を読み解く(後編)(4/4 ページ)

内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。この経済財政白書の第3章「Society5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。後編ではSociety 5.0により必要になる日本企業の取り組みについて紹介する。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

第4次産業革命による労働分配率の低下

 こうしたイノベーションの進展による労働分配率と生産性への影響をみてみると、イノベーションの進展を目指す企業行動への影響の中でも、第4次産業革命が労働分配率を低下させる影響を持つ可能性があることに注目が集まる。

 国の経済全体について、国民所得に対する雇用者報酬の割合でみた労働分配率の動向を確認する。OECD加盟国を中心とする33か国について、1995年〜2015年までの労働分配率の変化は、単純平均値では65.0%から64.8%まで0.2%ポイント低下している。国別にみると日本、ドイツ、米国などイノベーションが進展している先進国の労働分配率が低下していることが特徴として挙げられる。

photo
OECD諸国の労働分配率の変化幅(1995年〜 2015年)(クリックで拡大)出典:経済財政白書2018

 日本の労働分配率は、一部の企業の労働生産性の急激な上昇の影響というよりも、企業部門全体として賃金が低下してきたことが大きいようだ。人件費を抑制し労働分配率を低下させる方向に働く要因として、ICT関連機器などの資本財の価格の相対的低下を背景にした、労働の機械による代替の影響や、労働集約的な生産やサービスを海外に移転させる動き、さらに短時間労働、非正規労働の増加といった要因があるとみられる。

第4次産業革命は日本経済を救うのか

 続いて、経済成長の源泉となるイノベーションが、日本の生産性上昇率の向上にいかに貢献しているかを、企業レベルデータを用いた分析によって確認する。具体的には、IoTやAIといった第4次産業革命に関連した技術の導入や社員の教育訓練の取り組み状況が企業の生産性に与える影響を分析するとともに、経済全体でみたマクロの生産性を考える上で、イノベーションを担うスタートアップ企業など新規企業の参入がどの程度生産性に影響を与えているかを分析する。

 はじめに、IoTやAIといった第4次産業革命に関連する技術の導入が企業レベルの生産性にどのように影響するか、また企業における教育訓練など人材育成の取り組みが新技術の導入と補完性を持って生産性をさらに高める効果があるかを検証した。その結果、IoTやAIを導入した企業では、その他の条件がほぼ同じで、かつ、これらの新技術を導入していない企業と比べて、生産性の伸びの高い傾向があることが示唆される。

photo
IoTまたはAIを導入済・検討中の企業とそうでない企業の生産性の差(クリックで拡大)出典:経済財政白書2018

 また、そうした新技術を有効に活用するための教育訓練について、「正社員・非正社員関係なく、広く教育訓練を行う」と回答した企業に限定したサンプルにおける平均処置効果をみると、有意にプラスとなっており、その値は全サンプルにおいて推計した場合のものより大きくなっている。このことから、新技術を導入し、適切な人的投資と組み合わせている企業では、着実に生産性が高まっていることが示唆される。

 次に、日本企業の参入と退出の不活発さによって、資本や労働といった経営資源が適切に配分されず、日本企業全体の生産性が停滞している可能性について検証する。

 退出企業要因に関してより詳細にみるために、生産性の低い企業が、時間とともにどの程度生き残るのかという割合(低生産性企業の存続率)を計算すると、低生産性企業は時間とともに生存確率が低下(=市場から退出、もしくは生産性向上により低生産性サンプルから離脱)しているが、その低下スピードはさほど速くない。

 例えば、2010年を起点としてみて、5年後でも約半数近くが残っている。また、同様に米国の低生産性企業の存続率を算出した先行研究をみると、米国の上場企業の存続率が30%程度であることを考慮すると、日本では低生産性企業の存続率が相対的に高いことが分かる。

photo
低生産性企業の存続率(クリックで拡大)出典:経済財政白書2018

 これらの結果を踏まえると、「企業の新規参入は生産性を押し上げる方向に寄与はしているものの、2000年代初めと比べると2011年以降については寄与が小さくなっていること」「生産性の低い企業が退出せずに存続していることが生産性を押し下げている可能性があること(退出企業要因がマイナスに働いていること)」の2つの点が考えられる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る