古い工場で実現したデジタルツイン、シーメンスが示す“デジタル”の本当の意味:スマート工場最前線(2/3 ページ)
シーメンスの中でも「より現実的なデジタル化」に向けた取り組みをしている工場がある。ドイツのバードノイシュタット工場である。同工場のスマート化への取り組みを紹介する。
シーメンスが推進するデジタルエンタープライズ
シーメンスは「デジタルエンタープライズ」として、製品のライフサイクル全ての工程をデジタル化し、効率的で革新的な製品やサービスの提供を支援する取り組みを進めている。
これは、設計および製造プロセスと制御システムが連携することで、高精度な分析や解析結果をリアルの世界にフィードバックし、生産性を抜本的に改善する取り組みである。これらを実現する製品設計、生産計画、生産エンジニアリング、製造実行、サービスまでバリューチェーン全体を、デジタルからフィジカルまでカバーする製品やソリューションを備えるのがシーメンスの強みである。さらにこれらのソリューションを一元化するIoTプラットフォーム「MindSphere(マインドスフィア)」なども用意し、展開してきた※)。
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バードノイシュタット工場では、このシーメンスの一連の「デジタルエンタープライズ」ソリューションを自社実践として、ほぼ全面的に採用している。そして、製造に関する活動の大半をデータ化して蓄積し、一元的に管理することで、活用できるようにしている。製造に関する情報を全てデジタル空間で再現する「デジタルツイン」化を実現しているというわけである※)。
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例えば、設計開発にはCADソフトの「NX」があり、これらのCADデータや製造関連の情報を管理するためにはPLMの「Teamcenter」がある。さらに、Teamcenterに収納されているデータをベースとして、組み立て工程などをシミュレーションすることができる「Process Simulate」などの機能を活用し、簡単に効率的な工程設計を行うことが可能だ。同様にプロセス製造業向けでも「Plant Simulation」などの機能を用意している。また、これらの現場工程のシミュレーションや管理を統合し、生産情報や現場のリソース情報などとの連携を実現する「Tecnomatix」などのソフトウェアなども備える。さらに実際に製造作業の指示などを行う製造実行システム(MES)としては「Simatic IT」などを用意する。
生産現場からのデータ取得については、コントローラーレベルではPLCや産業用PCの「SIMATIC」シリーズを用意し、これらの通信機能を活用してデータを生産に関するリアルタイム情報を自動で取得できるようにしている。製造した製品については、出荷後の物流情報なども「Fleet management」により管理することが可能である。
さらに、これらの情報は「MindSphere」によりクラウドで情報収集し、工場外からも簡単に誰でも見られるようになっている。取得データを活用し、BIツールであるTableau SoftwareやTIBCO Sporfireなどの外部ツールとも連携でき、簡単に可視化が可能である。バードノイシュタット工場ではこれらのツールを全て活用し、リアルタイムで生産情報や機器の稼働情報などを取得し、そのデータ基盤を基に改善活動を進めているということが特徴である。
先述した「Arena of Digitalization」では、これらのリアルタイムの生産情報を工程ごとに見ることが可能。ドリルダウンなどにより詳細な原因の把握など、日常的な工程改善での活用の様子を示している。説明員は「導入し本格稼働するまでに約2年の準備期間があった。その中でも従業員教育には力を入れた。マインドセットを転換するまでには時間がかかった」と述べていた。
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