ワンペダル操作によるクルマの運転、より楽しく集中力も自然に向上:医療技術ニュース
産業技術総合研究所と日産自動車は共同で、ペダル操作の違いが運転者の心理状態と脳活動に及ぼす影響に関する実験を行った。ワンペダル操作での運転時に、運転がより楽しく感じられることが示された。
産業技術総合研究所(産総研)は2018年7月5日、同研究所自動車ヒューマンファクター研究センターと日産自動車が共同で、ペダル操作の違いが運転者の心理状態と脳活動に及ぼす影響に関する実験を行ったと発表した。
産総研では、脳波を用いて人間の認知状態を推定する技術、運転者などの認知状態を客観的に推定・評価する技術を開発。これらの技術は、作業の楽しさや難しさに関連して生じる注意状態の変動評価に有用であることから、新しいペダル操作(ワンペダル操作)が運転者の注意状態に及ぼす影響の調査に利用した。
実験は同年1〜3月にかけて、茨城県内の一般道路で日産「ノート e-POWER」を使用して行われた。実験参加者は12人。ノーマルモードおよびSモードで、参加者が交互に12回ずつコースを運転した。運転中に脳波を計測し、運転後に心理状態(質問紙)を計測した。
実験では、アクセルペダルの操作だけで加速や減速を行った。ブレーキペダルへの踏みかえ回数を減らしたワンペダル操作での運転時の心理状態および脳活動を、アクセルペダルとブレーキペダルの操作で加速や減速を行う従来のペダル操作(ツーペダル操作)での運転時の心理状態および脳活動と比較した。
心理状態については、ワンペダル操作での運転時に運転がより楽しく感じられることが示された。脳活動については、ツーペダル操作に比べ、ワンペダル操作での運転時に、注意状態を客観的に評価する方法の1つである「課題非関連プローブ法」における聴覚N1成分が減衰した。この減衰は、楽しさの重要な要因である運転への自然な集中を反映している。
この実験で、「楽しい」と感じる操作が運転への集中を促すことが分かった。脳波を用いた運転者の注意状態推定技術は、運転操作系の新しい設計支援技術となると考えられ、今後、研究を進め、創造的な自動車社会の実現に貢献するという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 医師が解説する「運転中のヒューマンエラー」、脳では何が起きている?
「CEATEC JAPAN 2017」で行われた自動運転技術に関するカンファレンスに、滋賀医科大学 精神医学講座 講師の松尾雅博氏が登壇。「生理機能障害としてのヒューマンエラー:睡眠障害・認知症との関連から」というテーマで講演し、医学的な立場から睡眠や疲労、認知症が自動車事故に及ぼす影響などを紹介した。 - 脳波から運動の意図を100msで認識、リアルタイムで思い通りに機械を動かせる
産業技術総合研究所は、脳の予測機能を利用し、脳波から高速かつ高精度に運動意図を読み取るブレーン・コンピュータ・インタフェース技術を発表した。訓練不要で負担が小さく、読み取り速度が100ms以内と速いためリアルタイムで利用できる。 - ヒトの脳全体をシミュレーション、1秒間の神経回路の処理を5分で再現
理化学研究所は、次世代スーパーコンピュータで、ヒトの脳全体の神経回路のシミュレーションができるアルゴリズムの開発に成功した。メモリを省力化し、既存のスパコン上での脳シミュレーションを高速化できた。 - 日産e-POWERの2車種目は「セレナ」に、「ノート」のシステムとの違いは
日産自動車は2018年2月28日、横浜市内で会見を開き、シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」をミニバン「セレナ」に搭載すると発表した。同年3月1日から発売する。e-POWERの搭載はコンパクトカー「ノート」に続き2車種目となる。今後もe-POWER搭載車種を拡大していく。 - 日産「ノート」は1000km走れる“電気自動車”に、「アクア」との差は縮まるか
日産自動車はコンパクトカーの「ノート」を一部改良し、ハイブリッドモデルを追加した。エンジンは発電のみに使用し、駆動力はモーターでまかなうシステムで、「充電が不要な電気自動車」と位置付けている。 - 日産が解消したい「クルマのネガティブ要因」、電動化と知能化は何をもたらしたか
「持続的なモビリティーの実現に向けて、技術によってクルマにネガティブに作用するような現象を解決する」という日産自動車の安徳光郎氏。電動化と知能化がもたらした成果を振り返る。