人工細胞で糖からイソプレンを合成する技術「自然界では不可能な驚異的レベル」:研究開発の最前線
横浜ゴムは、理化学研究所、日本ゼオンとの共同研究により、バイオマス(生物資源)から効率的にイソプレンを生成できる「世界初」(横浜ゴム)の新技術を開発した。
横浜ゴムは2018年7月26日、理化学研究所(以下、理研)、日本ゼオンとの共同研究により、バイオマス(生物資源)から効率的にイソプレンを生成できる「世界初」(横浜ゴム)の新技術を開発したと発表した。
3者は2013年から共同研究を進めており、2015年にコンピュータで微生物の代謝経路をゲノムスケールで設計する「in silico代謝設計技術」を用いて人工経路を設計し、イソプレンの新規合成法を発見している※)。
※)関連記事:合成天然ゴムをバイオマスから作る、細胞設計技術で2020年代前半に実用化
今回の新技術はこれを進化させたもので、新しい人工経路の構築と高活性酵素の作成により、優れたイソプレン生成能を持つ細胞を創製。この細胞内(in vivo)で出発原料であるバイオマス(糖)からイソプレン生成までを一貫して行うことに成功した。さらに、生成したイソプレンの重合によるポリイソプレンゴムの合成も実現した。研究に当たっては、理研・環境資源科学研究センター(CSRS)が保有する細胞設計技術、植物科学技術を活用している。
自然界において、イソプレンはメバロン酸(糖から生成した中間物質)から5段階の反応を経て生成することが知られている。今回構築した新しい人工経路は、メバロン酸からイソプレン生成までを2段階で行える。さらに高活性酵素は、「自然界の酵素では不可能なレベルの驚異的なイソプレン生成能を持つ」(横浜ゴム)という。これらを、本来はイソプレン生成能を持たない大腸菌に導入してイソプレン生成能を持たせることにより、効率的なイソプレン生成を人工的に行えるようになる。
イソプレンは、自動車タイヤに用いられる合成ゴムの1種であるポリイソプレンゴムの原料だ。一般的には、石油由来のナフサを熱分解した副生成物として工業的に生産されている。今回の技術は、これをバイオマス由来に置き換えられるため、石油への依存度を低減し、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素排出量の削減に貢献できるという。
また今回の技術は、同じく合成ゴムであるブタジエンのようなジエンゴムにも適用できることを確認しており、イソプレンにとどまらない可能性も示されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 合成天然ゴムをバイオマスから作る、細胞設計技術で2020年代前半に実用化
イソプレンを重合して製造するポリイソプレンゴムは、天然ゴムに構造が類似することから合成天然ゴムと呼ばれている。横浜ゴムと理化学研究所、日本ゼオンは、このイソプレンをバイオマス(生物資源)から合成することに成功した。2020年代前半を目標に実用化を目指す。 - タイヤ原料のブタジエンをセルロースから直接合成、2020年代前半に実用化
横浜ゴムは、東京工業大学との共同研究により、バイオマスであるセルロースから、タイヤの原料となるブタジエンを直接合成する触媒の開発に成功した。2020年代前半を目標に実用化を目指す。 - 横浜ゴムの空気抵抗を減らすフィン付きタイヤが進化、浮き上がり防止機能も
横浜ゴムは、タイヤ周辺の空気の流れをコントロールするエアロダイナミクス技術利用した「新形状エアロダイナミクスタイヤ」を「東京モーターショー2015」で参考出品する。空気抵抗を減らす「フィンタイヤ」の進化版で、車両の浮き上がりも抑制できるという。 - ブリヂストンと住友ゴムが注目する天然ゴム資源「ロシアタンポポ」
タイヤの主原料である天然ゴムは「パラゴムノキ」から産出されている。パラゴムノキが熱帯で生育することもあって天然ゴムの生産地は東南アジアに集中しているが、このことはタイヤ産業にとっては大きなリスクになっている。そこで、パラゴムノキに替わる天然ゴム資源として注目されているのが「ロシアタンポポ」である。 - 天然ゴムより高性能の合成ゴム、ブリヂストンがバイオマスから生産
ブリヂストンは、天然ゴムとほぼ同等の分子ミクロ構造を達成したポリイソプレンゴムの合成に成功した。天然ゴムと近い性質を実現したため、合成ゴムに置換することが可能になる。生産コストも「市況によるが、天然ゴムより少し高い程度」(ブリヂストン)に抑えたという。 - ゴムのしなやかさと樹脂の強靭さ併せ持つ、ブリヂストンの新材料は無限の可能性
ブリヂストンは2018年5月17日、東京都内で会見を開き、ゴムと樹脂を分子レベルで結び付けた「世界初」(同社)のポリマー材料「High Strength Rubber(HSR)」の開発に成功したと発表した。2020年代をめどに事業化を進めるとともに、オープンイノベーションによって開発を加速し、タイヤなどブリヂストンの事業範囲にとどまらない展開の拡大も目指す。