ビーカーを使ってカーボンナノシートを作製する手法を開発:材料技術
物質・材料研究機構は、カーボンナノシートを簡易に合成する手法について発表した。ビーカーと撹拌機、ごく少量の材料で有用な触媒活性を持つ薄膜を作製できるため、工業分野での展開や燃料電池への応用などが期待される。
物質・材料研究機構は2018年7月6日、名古屋大学、東京大学と共同開発した、電子材料「カーボンナノシート」を簡易に合成する手法について発表した。
研究グループは、ビーカー内の水をかき混ぜて、水面に生じた渦流に輪状の炭素分子であるカーボンナノリングを展開して静置した。その後、自己組織化によって自然に作られた薄膜を基板に写し取ったところ、厚さ10nm未満で1000μm2にわたって均一な分子薄膜を作製できた。
同手法は、一般的な実験室で使われているビーカーと撹拌(かくはん)装置だけで実施できる簡易な方法だ。しかも、わずか1ng(10億分の1g)のカーボンナノリングで、1m2のナノシートが作製できる。
この方法で得られた分子薄膜は、数十nmの無数の孔(メソポーラス)を持っており、焼成して炭素化した後もこのメソポーラス構造を保持している。焼成前のナノシートは電気が流れない絶縁体だったが、焼成してカーボンナノシートにすると導電体へと変化した。
さらに、窒素を持つピリジンをカーボンナノリングに加えて均一な分子薄膜を作製し、それを焼成することで窒素を含有したカーボンナノシートを得ることに成功した。X線光電子分光法で確認したところ、同シートに含まれる窒素は、有用な触媒活性を示す電子状態であることが分かった。
今回開発した手法は、ビーカーと撹拌機、ごく少量の材料で薄膜を作製できるので、これまで均一な薄膜を作製するのが難しかった分子や材料を含め、大面積化による工業分野での展開など、利用の幅が広がる。また、窒素を含有したカーボンナノシートの合成にも成功しているため、コストの高い白金の代用触媒として燃料電池への応用も期待される。
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