「3Dは万能!」という誤解と弊害のお話: 【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年7〜8月前半のサブテーマは『「こんな加工現場はいやだ!」 適切な3D化とIT化を考える』です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年7〜8月前半のサブテーマは『「こんな加工現場はいやだ!」 適切な3D化とIT化を考える』です。
前回までは「人智>コンピュータ? いまだアナログ世界の加工現場の現実」をお題に、3D化のタイミングや暗黙知が鍵を握る加工現場でのデジタルデータ運用、技術継承の在り方などについて述べました。今回からは「加工現場に適した3D化とIT化とは何か?」について考えていきます。
第2回 サブテーマ:「こんな加工現場はいやだ!」 適切な3D化とIT化を考える:SCENE 1:「3Dは万能!」という誤解と弊害のお話
3D CADを使った設計が推進される裏で、加工現場では依然として紙図面が「正データ」として使われているので、設計側では「3Dデータ作成→2次元出図」というプロセスが当たり前になっています。
単に設計側の手間だけを考えれば、手のかかる図面作成の工数を削って、3Dデータだけで生産が完結できるならそれに越したことはありません。それに、最近よく耳にする「若手の図面解読スキルの低下問題」。これも、加工現場から紙図面を排除することで解消できそうですし、図面をファイリングして保管する必要もなくなるので、経費節減にもつながりそうな気がしますよね。
だからと言って、「3D化を推進すれば、3DデータをCAMで処理してポスト処理すれば加工プログラムができるから、紙図面を頼りにしたプログラムの手組みに人手を取られなくて済むし、仕上がり後の検査だって、測定物の形状と3Dモデルを照合して測定する設備があるらしいし、だったらもう紙図面がなくても全然困らないじゃん」なんて安易に考えていいのでしょうか。
現場が紙図面を求めるのは、「効率のいい仕事のため」でもあるのです。そこを理解していないと、3D化推進が功を奏すどころか、かえって生産性の低下を引き起こすことになってしまいます。
部品加工を依頼している加工屋さんの中で、3D化に積極的に取り組んでいる会社があります。ここでは最近、機械稼働率アップの目的で3D CAMを導入して、仕事の進め方が変わってきました。何でも、「これからは現場の図面レスを進めていく。加工プログラムの作成は全てCAMを使うように」とのことらしく、穴あけ、面ひきの単純な加工も全てCAM。この指示はトップダウンなので、これでもし機械稼働率が上がらなかった時のことを考えると気が重いのだそうで、作業者は本音をもらしました。
「いくらトップダウンでも、今回の指示を全て受け入れたら間違いなく生産効率は落ちます。だから設計者には、裏で柔軟に対応してほしい。3次元加工して欲しい所は3Dモデルをきっちり作って、2次元加工の部分は図面を用意して指示するとかね。だいたい、図面がなかったら、加工途中の寸法確認も不便で仕方がない。最後の検査もそう。頭から尻尾まで3Dで統一するのは、今のこの現場では無理がありすぎる」。
時代の流れについていくための「3D化」は間違ってはいません。でも、経営層が現場の現状をくまなく把握、分析できているとも限りません。その状態で「現場改革」がスタートしてしまったら、現状に不相応な「3D化」のために現場に大きな負荷がかかり、投資に見合った成果を得るどころか、悪い結果ばかりが見え隠れしてきます。
そこで加工現場では、実害が出る前に「完全3D化」を見直してほしいという「声」を伝えるために、設計者に柔軟な対応を求めているのです。こういう時に、加工を理解している設計者とそうでない設計者とでは、認識の共有度合いが異なります。やはり、設計者はできるだけ日頃から現場に足を運んで加工者の生の声を聞き、それを設計にも反映するよう努めたいですね。双方の良好なコミュニケーションによって、「暴走する3D化」に待ったがかけられるかもしれません。
次回は、『SCENE 2:今さら聞けない「加工現場のIT化ってどういうこと?」』をお届けします。かつては「当社はIT化を推進しています」なんて言っておけば、「なにやらイケてる会社ね」ってなったものだけれど……。(次回へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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