教えることが苦手な先輩たち:【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」
週1の連続ドラマのような感覚で記事を公開しています。毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年6〜7月前半のサブテーマは「人智>コンピュータ? いまだアナログ世界の加工現場の現実」です。
第1回 サブテーマ:人智>コンピュータ? いまだアナログ世界の加工現場の現実:SCENE 4:教えることが苦手な先輩たち
>>前回:SCENE 3: 「新しいものを受け入れたくない」空気の中身
設計であれ加工であれ、業務上で個人が経験値を高めて蓄積したノウハウは、それを他の人材へ展開(引き継ぐ)ことまでをセットにしないと現場全体のノウハウになりません。ところが、仕事がデキる人はおしなべて教えるのが苦手です。
そこでこういう時ではよく、「一を聞いて十を知れ」とか「見て覚えろ。取りあえずやって体で覚えろ」などと言ってしまいがちですが、「仕事とは、自ら進んで学んで覚えて自分のスキルにするもの」というウェットタイプの人と「仕事とは、上司や先輩から教えてもらったことをミスなくこなしてお金をもらうもの」というドライタイプの人が合うわけありません。誰かれ構わずそうしていると、昨今の“ドライな指示待ちタイプ”の新人などは居心地が悪くなって、最悪は会社を辞めてしまいます。
すると、「じゃあ次は、教えなくても勝手に覚えて育つ人間が入ってくるのを期待する」という受け身な思考になってしまいます。そんな殊勝な人材がいつ入ってくるかなんて分かりませんし、入ってこないかもしれない……。もしかしたら、あの指示待ちクンも導き方次第で戦力になったかもしれないですよね。
結局は、場数を踏みながら自分で考えて試して、失敗もして、その末に納得したものじゃないと自分の経験値にならないのは、過去もこれからも変わりません。「実際の現場で、心と肌で痛みを感じるくらいの失敗をしないままで経験値を上げる方法なんかないですよ」と断言できます。それなのに今の若い人たちは自己肯定感が低く、間違いや失敗をしないように行動する傾向が強いので、先輩方の思考とかみ合わないのです。
加えて彼らは、アナログ的でベタなコミュニケーションも苦手。だから力技とか精神論とかそういう抽象的な方法ではなく、時代に合わせた技術の教え方を探るしかないんですね。ドライなデジタル社会に生まれた彼らの知識と能力を、「作業」を通じて引き出す方法を考えるのです。
でも、コンピュータが人間を超えるのはそう簡単ではなく、私は、どんなにデジタル化が進んでも、暗黙知が込められた熟練者の技能をデジタル技術で完コピするのはほぼムリだと考えています。だから、若手への指導は“形式知”から導入するのが適切で、現場経験を重ねながら、常に自分の頭で考えることの必要性と、頭で理解するだけでは経験値は上がらないことを学習できる仕組みができれば、やがて暗黙知を得て、アナログとデジタルを無意識に使い分けながら「自律」に至るのではないでしょうか。
過去記事『ママさん設計者はこう思う「モノづくり界の今までの10年、これからの10年」』(MONOist10周年記念寄稿)の中で、「これからは、設計者は作り手になりユーザーにもなる」という内容のお話をしました。設計に一番必要な能力はCADの操作技術ではなくて「発想力」や「想像力」です。人間は自分が感じた感触とその時得た情報とセットにして記憶するので、体験豊富なほど引き出しが増えるようにできているようです。この引き出しの数が、「発想力」「想像力」の源となります。従って、加工経験のある設計者は強い設計者になります。それは、頭の中のアナログ情報を現物にアウトプットする経験値を得ているからです。これからも、人間が人間のためにモノを作り続ける間は、加工現場から「アナログ」が消えてなくなることはないでしょう。
次回からは新テーマ、『「こんな加工現場はいやだ!」適切な3D化とIT化を考える』(予定)が始まりますよ〜!(次回へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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