「新しいものを受け入れたくない」空気の中身:【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」
週1の連続ドラマのような感覚で記事を公開しています。毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年6〜7月前半のサブテーマは「人智>コンピュータ? いまだアナログ世界の加工現場の現実」です。
第1回 サブテーマ:人智>コンピュータ? いまだアナログ世界の加工現場の現実:SCENE 3:「新しいものを受け入れたくない」空気の中身
>>前回:SCENE 2:「3D化しなくても困らない」と言う加工現場のお話
かつて私が3D CADから逃げていたのは、いわゆる「新ツール拒否症」です。これはいつの時代でも必ず現れるお約束キャラみたいなもので、「2次元CADから3D CADへの移行より、ドラフターから2次元CADへの移行の方がすんなりいったよね」とも聞きますが、あの頃だって「手描きの方が絶対早い」「CADなんか、描いてる最中にいきなり停電になったらどうするんだ」と、ネガティブな理由を並べてみたり「実務以外にPCの操作も覚えなきゃいけないのはしんどいな」とボヤく人はいたのです。
確かに、従来の実務そのものに加えて、実務をこなすための新たなツールの使い方を覚えなくてはならないのは心理的に負担です。そして、実務経験が長くて自身の中にルーティンが成り立っているベテランほど、仕事のやり方が変わることへの抵抗は大きめで「新ツール拒否症」を発症しがちです。環境が変わることで余計なストレスを抱えたくないから、従来環境の優位性を列挙したり、新しいものへのネガキャンに走るのです。
それでもSCENE 2の事例のような、従来環境では設計意図を表現できない事態に直面したとき、新しいツールに解決を求めてみようと意識が芽生えれば、その時が「新ツール拒否症」からの脱却の時です。ドラフターもCADも設計のための「道具」ですから、それを使いこなすことは手段であって目的ではないのです。
「道具」という観点で、場所を加工現場に移してみます。汎用機からNCへ、3軸マシニングセンタから5軸マシニングセンタへと加工設備の導入が相次ぎ、できることが増えるにつれ、徐々に人間固有の技能が重視されなくなっていき、数値制御任せになることによる「新ツール拒否症」は起こり得ます。
ただ、汎用機加工とNC加工にはともにメリットとデメリットがあって使い分け方は明確なので、完全に入れ替えるよりも共存させるほうが現場は充実するので、それに伴って「この人は汎用機。この人はマシニングセンタ」と、作業者を適材適所に配置すれば、柔軟で合理的な加工の流れができます。
「汎用機じゃ精度がばらつくから、マシニングセンタを入れてほしい」という若手の要望があったものの、設備投資の見合わせでそのまま同じ機械で作業して経験を積んでいったら、やがて精度を安定して出せる技能が身についていたという話があります。
加工現場では、その仕事に対して、“ミスなく・早く・確実に”できる加工手順を、素早く判断して組み上げる「段取り能力」と「対応能力」が求められます。これはどんな加工機械でも同じ、現場のノウハウです。段取りが組み上がれば、後の作業は新人でもベテランでも差はなかったりするので、カギを握るのは、ノウハウを持つ経験値の高い熟練者です。この、加工での経験値というのは個人の無形の知的財産で、それを伝えるにしてもマニュアル化が難しい面があります。
それでも設計のデジタル化や3D化が進むのに合わせて、モノづくり現場のノウハウを引き継いでいく方法も考えていかなくてはいけません。ファブレスの当社としては、設計したものをいつでも安心して加工依頼できて、いつもきっちり現物化されることが一番ありがたいことなのです。
次回は、「SCENE 4:教えることが苦手な先輩たち」をお届けします。仕事がデキる人って、教えるの苦手な人が多いのよねぇ……(次回へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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