夜間に物体までの距離と形を同時に検知、250m先まで対応:車載半導体
パナソニックが、このほど発表したTOF(Time Of Flight)方式の測距画像センサーの採用技術について説明。夜間に250m先までの検知に対応し、離れた場所にある物体までの距離や形状を詳細に認識することができるようになった。2019年までに機能サンプルの提供を開始し、2021年から車載用も含めて広い用途で提案活動を開始する。
パナソニックは2018年7月3日、東京都内で記者説明会を開き、このほど発表したTOF(Time Of Flight)方式の測距画像センサーの採用技術について説明した。
TOFカメラは、光源と光を検出するカメラで構成されており、光源の赤外線レーザーが発した光が物体に反射するのを利用して、物体までの距離や物体の形を捉える。従来の技術では、遠方にある物体が対象の場合、反射してセンサーまで戻ってくる赤外線レーザーの光量が少ないため、長距離の検知が困難だった。これを受けてパナソニックは、反射して画素に入った光子を増幅する技術を開発し、画像センサーの解像度と感度を向上した。
これにより、夜間に250m先までの検知に対応し、離れた場所にある物体までの距離や形状を詳細に認識することができるようになった。2019年までに機能サンプルの提供を開始し、2021年から車載用も含めて広い用途で提案活動を開始する。
チップ面積を小型化しながら感度向上
従来のイメージセンサーでは、画素に入った1光子は1電子にしか変換されないため、長距離を反射した微弱な信号光はノイズの影響を受けやすくなるのが課題だった。開発技術では、光電子増倍機能を持つAPD(アバランシェフォトダイオード)(※1)を画素に導入することにより、1光子を1万倍以上の電子に増倍できるようになり、感度が大幅に向上した。
(※1)avalanche photodiode、アバランシェは雪崩を意味する。1光子から生成した1電子に強い電界を印加することで物質中の他の電子と強く衝突して2個の電子が生成される。このような衝突を次々に繰り返すことで電子が増幅される。
これまでのAPD画素では感度を向上するには画素の面積を大きくする必要があった。今回、パナソニックは、増倍部と増倍された電子を蓄積する部分を縦に重ねる構造を採用し、画素面積を小さくしながら感度を向上することに成功した。これにより、チップ面積を従来の2分の1以下に小型化し、カメラに搭載可能なサイズとした。
電子の増幅だけでは、遠方で光子が1個戻ってくるかどうかという条件下で光子の検出が0個というケースが起こりうるのを対策できない。その結果、物体の形状が不鮮明になってしまう。開発技術では、最短10nsの短パルス光を照射するとともに、センサーが同じく10nsで高速シャッターを駆動する独自の短パルスTOF方式を採用する。この結果、微弱な光子1個の到達回数を画素内で積算することにより、より鮮明な画像を得られるようになるという。また、短パルスTOF方式の特徴を生かし、時間単位、つまり距離ごとの画像を合成することができ、一括して3次元の距離画像を取得することも可能だ。
実際に車両に搭載する場合は、赤外線レーザーの光源とカメラを分けて設置することが可能だ。光源1つで最長250m、水平画角30度をカバー可能で、赤外線レーザーは現在のLiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)のような駆動部分が不要のためコストを下げる余地があると見込んでいる。夜間以外にも、降雪や降雨にも対応する。
得意なのは夜間、昼間は苦手
パナソニックが今回発表したTOFカメラ向け画像センサーは、夜間のセンシングに特化している。従来のCMOSイメージセンサーでは検知可能な距離や明るさに限界があった。ステレオカメラでも、センシングできるのはヘッドランプの光が届く範囲に限られる。また、LiDARやミリ波レーダーは検出するのは距離のみだ。「夜間に画像も距離も、という軸で提案していきたい」(パナソニック)という考えだ。
また、アプリケーションは夜間を前提としており、昼間の検知性能についてはまだ検討できていないという。開発技術は光電子の増幅に重点を置いているため、昼間はノイズが増える環境になってしまう。「明るい環境が得意なセンサーは既に市場に出ている。自動車のセンシングはセンサーフュージョンで信頼性を高めているので、開発技術を他のセンサーとともに組み合わせてもらいたいと考えている」(パナソニック)。
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