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「Azure Sphere」の半端ない専用チップコストは下げられるのかIoT観測所(46)(3/3 ページ)

2018年4月にMicrosoftが発表した「Azure Sphere」。「Windows 10」よりも高いセキュリティ機能を担保できるソリューションであることをうたっているが、現時点では高価な専用チップが普及に向けてのボトルネックになりそうだ。

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「Windows 10」ではなくLinuxベースのカーネルで動作

 このMT3620に対応する形で、Microsoftは「Azure Sphere OS」と「Azure Sphere Security Service」の2つを提供する。先ほど少し書いたが、物議をかもしたのは、このAzure Sphere OSがWindows 10ではなくLinuxベースのカーネルで動作することだ。こちらの図5で言えば、OS Layer 1〜3をMicrosoftがLinuxベースで提供する形である。

図5
図5 「Azure Sphere OS」のレイヤー構成 出典:@IT

 厳密に言えば、Cortex-A7上で動くもの(OS Layer 2/3)がLinuxベースで、Pluton security subsystem内のCortex-M4Fで動くSecurity Monitor(OS Layer 1)はRTOSの類と思われる。この間はおそらくメールボックスを介して通信するのであろう。またアプリケーションはコンテナの形で動作するが(OS Layer 4)、リアルタイムI/Oに関してはI/Oサブシステムの2つのCortex-M4Fの上で(Pluton security subsystemとは別に)I/Oに特化したRTOSが動作しており、これをコンテナからアクセスできるようなAPIを提供する(これもメールボックス経由での通信であろう)と想像される。

 要するに、全部がLinuxというわけではなく、Linux+RTOSのヘテロジニアス構成のOSという形であり、ただしアプリケーション開発者からはコンテナしか見えない形になる(ので、何がどう動いているかを把握しなくてもすむ)ということであろう。

 そう考えると、異様にI/Oサブシステムの性能が高そうな理由も想像できる。通常、Cortex-M4Fの性能は(要求にもよるが)そう高くないので、リアルタイム処理の場合はハードウェアの構成をきちんと見た上で最悪値設計を行う必要がある。ところが、コンテナ化してしまうと、そうした構成が遮蔽されてしまうから、最悪値設計が難しい。そうした状況でもある程度のリアルタイム処理を保障するためには、ハードウェアの性能を上げてしまうのが一番手っ取り早い。理屈は分かるが、ちょっと力技過ぎる気がしなくもない。

 一方、Azure Sphere Security Serviceの方はこちら図6にもあるように、Azureと組み合わせることで冒頭に挙げた7つの要件を満たすためのサービスである。利用するサービスそのものはAzureで、これは何も違いがないのだが、それを使う際に“Windows 10よりも高いセキュリティ機能を担保できる”、というのがAzure Sphereの存在意義となる。

図6
図6 「Azure Sphere Security Service」のイメージ(クリックで拡大) 出典:@IT

専用チップの価格を50ドル未満に抑えるのは難しい?

 ということで話は分かるのだが、こうしてあらためて見てみると、異様なのがMT3620の構成である。これはMediaTekの意向というよりもMicrosoftの強い要望なのだろう。Azureにつながるデバイスとして、ローエンドのセンサーノードからセンサーハブ、ちょっとしたGUIレベルまで提供できるアプリケーションプロセッサまでを1つでカバーするとなると、こうした無駄に豪華な構成にならざるを得ない。普通だったらこういう全部入りではなく、ラインアップを複数用意しそうなものだが、それをしない(orできない)のは、MicrosoftのSoCラインアップ対応能力に限界があるためか、それとも当たるかどうか分からないマーケットに多数のSoCのラインアップを投入するのをMediaTekが嫌がったためか、あるいは他の理由か。

 いずれにせよ、あまり前向きな理由は思い付かない。なぜかといえば、ここまで豊富な機能を持つとなると、当然価格に跳ね返るためだ。MCUといいつつ、実際にはアプリケーションプロセッサレベルで、しかもWi-Fi接続性まで持ち、16MBのシリアルフラッシュをSiPで搭載というと、チップの価格を50米ドル未満に抑えるのはかなり難しい(というか、普通に考えたら無理)である。

 開発ボードとしては、例えばseeedが「MT3620 Development Board for Azure Sphere」のプリオーダーを開始しているが※13)、こちらのボードの価格は84.9米ドル。チップ単体の量産価格は不明だが、まぁもうけ度外視の評価ボードですら84.9米ドルだから、恐らく60米ドル程度は堅いところだろう。これを許容できるIoTデバイスはかなり限られるのではないだろうか。

※13)関連リンク:MT3620 Development Board for Azure Sphere

 こちらの記事※14)の最後にもあるが、「チップとOSで10ドル未満を目指す」というのは、MT3620のことではなく、他のシリコンパートナーの、もっと機能を絞り込んだSoCでの話になるのではないかと思われる。普及するかどうかは、そうした廉価なチップがいつ、どの程度出るかにかかっていそうな気がする。

※14)関連記事:「Azure Sphere」が国内初披露、2018年内に搭載製品を出荷へ

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