1社では難しい「レベル4」、オープンソースの自動運転ソフトが提供するものは:人とくるまのテクノロジー展2018(2/2 ページ)
「人とくるまのテクノロジー展2018」(2018年5月23〜25日、パシフィコ横浜)の主催者企画の中から、ティアフォーの取締役で、名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授でもある二宮芳樹氏の講演を紹介する。
自動運転機能をプラットフォームで提供するAutoware
完全な自動運転を実現するには非常に多くの課題がある。これまでの自動運転車は車両技術中心で作られてきた。しかし二宮氏は「今後はAIやロボティクス、センサーなどいろいろなものがないと構築できない。非常に幅広い技術が必要になる」と語る。これは、巨大な自動車メーカーやITベンダーでも単独で全システムを構築するのは難しいレベルとなる。
Autowareは、このような状況を打開すべく名古屋大学が中心になって開発したオープンソースの自動運転ソフトウェアだ。二宮氏が取締役を務める株式会社ティアフォーは、Autowareの普及とサポートなどを担当する。
Autowareは完全自動運転のレベル4を実現すべく開発された。オープンソースのAutowareは、Linux上で作動するROS(ロボットオペレーティングシステム)用のアプリだ。GitHubなどで公開されており、誰が使っても無料で、改変も自由となる。Autowareは、二宮氏によれば、既に国内企業100社、30校の大学、海外の企業など10社で800人以上の研究者に利用されているという。オープンソースの形で公開されているのは、基本的には研究開発に向けたものであり、権利関係を主張しない方が技術の進化を阻害しないためだ。
講演では、実際にAutowareを使った自動運転の実証実験が幾つも紹介された。これには米国シリコンバレーやエストニア、中国など日本以外で行われたものも含まれる。実験に使われた車両はシャトルバスからゴルフカートのような小型車までさまざまで、走行場所も高速道から一般道、教習所のコースまでバリエーションに富む。紹介された実証実験では、Autowareを搭載した車両が駐車中の車両など周囲の状況を把握しつつ、適切な判断で走行する様子や、遠隔操作によって車両を運転できる様子などが紹介された。
高精度の3次元地図を利用、LiDARからの情報で現在地を把握
完全自動運転でレベル4を実現するには、幾つかの方法がある。そのうちAutowareが採用しているのは、3次元の高精度地図を使う方法だ。Autowareでは、システム内のサイバー空間上に3次元地図を作り、走行に必要な車線や停止線、信号などの情報を管理する。
「例えばこの停止線で止まろうとすると、どの信号を見たら良いかという信号の位置もリンクしている。信号の位置は3次元空間上で管理されているので、そこの色を見に行けば良いというところまで地図がサポートしている」(二宮氏)
自動運転では、路面上に誘導線を引いたり、磁気マーカーなどを設置して車両に現在位置を把握させたりするものもある。しかし、Autowareではそうした技術は利用していないため、3次元地図上のどこに自分がいるのかを正確に把握することが重要となる。Autowareでは、LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)などの情報を利用して自車位置の正確な把握を実現している。
3次元地図とLiDAR情報のマッチングによって位置を検出するには、画像から物体を認識するための深層学習(ディープラーニング)の技術が使われる。しかし、Autowareのプロジェクトでディープラーニングを開発するのはリソースが足りない。そこでAutowareでは「世界で最高の技術が出たときにそれを取り入れるアプローチ」(二宮氏)を取っているという。ディープラーニングの最新技術は、ソースコードはもちろん、技術を評価するためのデータもオープンにされることが多い。この評価用データは、自動運転の人工知能(AI)を学習させ強化するためにも活用できるという。Autowareでは、このデータを利用するための効率の良いツールを用意している。また、他の分野でも利用できるツールが用意されている。
ちなみにAutowareはPCの他、NVIDIAの自動運転向け車載プラットフォームである「DRIVE PX」上でも作動する。ティアフォーでは、これを中心にLiDARとカメラ、IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)などをパッケージ化した「AIパイロット」と呼ぶユニットも用意しているという。
このユニットを使うことで、これまでのように部品ベースで自動運転システムを構築する苦労から解放される。ユニットの搭載で手軽に自動運転車が作れるので、より効率的に自動運転システムを進化させることができる。
自動運転の先にあるものは?
自動運転によるモビリティサービスを根付かせるためには、ビジネスモデルの構築が重要だと二宮氏は語る。いろいろな分野のプレイヤーとのコラボレーションやシナジーが必要であり、ティアフォーとしても日本郵便と郵便物の拠点間輸送の実験を行っていることを紹介した。
二宮氏は、自動運転車が移動する際に入手したデータを他の用途に活用する方向性も示した。各種のセンサーやカメラなどを搭載する自動運転車は、走行する場所のさまざまなデータを収集できる。LiDARは、一般的に周囲100mの情報を得る能力を持つ。こうしたデータは、街の監視や設置物のメンテナンスなどにも利用できるという。
また、自動運転車がこの情報を共有すると、より安全で効率的な交通も実現できることにも言及した。現在の自動運転技術は、曲がり角など死角となる場所を走行する際には熟練ドライバーの運転にならった走行を行うことを目指している。つまり、先読み運転や防衛運転と呼ばれるものだ。そのため死角のある場所では、自転車などが飛び出してきても衝突しないようなスピードと間隔で走行する。
しかし、他車が発する情報によってその死角に人やモノが存在しないことが分かれば、スピードを落とさずに走行しても問題はない。二宮氏は、「ダイナミックマップ」と呼ばれるこの仕組がさらに進化すると、信号機が不要となる可能性もあると語る。
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