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AIや大規模解析では、省力化ではなく価値創出が重要CAEイベント(2/2 ページ)

エムエスシーソフトウェアが開催した年次ユーザーイベント「MSC Software 2018 Users Conference」において、筑波大学 システム情報系 教授で筑波大学 人工知能科学センター センター長、理化学研究所 計算化学研究機構客員研究員を務める櫻井鉄也氏が、デジタルとAI(人工知能)をキーワードに「AI技術を用いたデータとシミュレーションの統合活用」と題して講演した。

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シミュレーションとデータ活用に共通する固有値計算技術

 櫻井氏は次に、シミュレーションとデータの活用について説明した。現実世界をコンピュータに載せるには、特定の目的に応じて着目した特徴を取りだしてモデル化するが、これには対象についての知識や原理を使う“物理モデル”と、観測したものを当てはめる“データモデル”がある。物理モデルはそれが正しく表現できる範囲ならこれまでにないものでもちゃんと計算したものが使えるが、例えば経年劣化するような建物では全てモデル化するのは大変になる。データモデルでは、観測した範囲を超えると大間違いをする可能性があったり、誤った観測値が紛れ込むとこれも間違った答えとなる。物理モデル、データモデル共にAIによる学習を適用することによって、シミュレーションの精度を高めていくことが可能だ。

 またデータ解析において、データ要素間に相互関係があるような場合や、データの中から特徴を見つけ出そうとするような場合では、相互関係をモデル化すると考えれば最後は固有値問題となる。大規模な固有値計算になることが多いが、これをスーパーコンピュータで解けばよいということで、櫻井氏らがCRESTのプロジェクトで開発した固有値解析エンジン2種を紹介した。1つは「z-Pares(ジーパレス)」という汎用の並列固有値解析エンジンで、材料シミュレーション、原子核、素粒子、構造解析などいろいろな分野で使える。もう1つの「FISS(エフアイエスエス)」はアルゴリズムを拡張したりチューニングしたりするなどして構造解析向けに性能を特化させた並列固有値解析エンジンだ。

 これらの解析エンジンを使って1675万自由度(ソリッドモデル)から9436万自由度(シェルモデル)までのいくつかのモデルを、筑波大学の「COMA」(ピーク性能1.0PFLOPS)、筑波大学と東京大学が共同で運営する「Oakforest-PACS」(同25PFLOPS)、「京」(同11.3PFLOPS)上で固有値解析した実例を提示した(周波数範囲はモデルにより異なる)。


z-Paresを用いた自動車変速機の固有値計算例。1675万自由度、0〜6000Hz。

 実際の自動車用変速機のモデル(1675万自由度、0〜6000Hz)をz-Paresによって解析した例では、COMAで288ノードを使って285秒、京で6912ノードを使って378秒かかった。1ノード当たりのメモリ量が大きく異なるので直接比較は難しいが、どちらの場合もノード数を増やすことで計算時間は大幅に短縮されている。変速機以外のモデルにおいてはFISSでの解析結果が示されたが、やはりノード数が増えると計算時間は大きく減少しており、固有値解析エンジンの優秀さが見て取れた。「実世界を精度よく取り込んで、早く結果を出し、いろいろなデータを統合的に使っていきたい」という。


FISSを用いた固有値計算例。シェルモデル、3425万自由度、0〜100Hz。

 最後に櫻井氏は、結局重要なキーワードはデジタルだとした上で「デジタル化で省力化を考えるのではなく、いかに新たな価値を生み出すか、あるいはデジタルの方から発想してどうするかを考えることが重要。そのとき現実とコンピュータ、フィジカルとサイバーをつなぐことが非常に重要で、シミュレーションだけではなくAIもどんどん活用してデータも使って、統合的にやっていく必要がある。AIは特別なものではなく、最小二乗法やモーダル解析、固有値計算などがベースになってできている。これからの人材育成も重要だが、現場の皆さんもチャレンジしてもらえたら」と呼びかけた。

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