金属3Dプリンタで金銅鰐を精巧に再現――やまぐち3Dものづくり研究会(山口県):地方発!次世代イノベーション×MONOist転職
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第25回。山口県で行われている、ものづくり力の高度化・ブランド化に向けた技術向上の取り組み「やまぐち3Dものづくり研究会」を紹介する。
イノベーションの概要
「やまぐち3Dものづくり研究会」は、県内企業における3Dプリンタなどを活用した3Dモノづくり技術の向上を目的に、山口県産業技術センターが2014年10月に創設した研究会だ。会員は山口県内に拠点を持つ企業や大学などの研究機関で、以下のような活動をしている。
- 3Dモノづくりに関する講演会・機器活用セミナー・見学会等の情報収集、啓発
- 金属3Dプリンタの活用事例研究
- 樹脂3Dプリンタの高度な活用事例研究
- 3Dモノづくり手法の調査研究
運営する山口県産業技術センターは技術相談や指導、共同あるいは受託による研究を行っている他、各種の試験・計測機器などの多くの研究機器を保有し、企業などに開放している。3D造形に関しては、3DデジタイザやX線CT装置、3D CAD、また金属系、樹脂系の各種3Dプリンタなどがそろい、活用事例などもHP上で紹介されている。
2017年には、金属積層造形機を活用して、山口県萩市の多越天神ゆかりの国の重要文化財「金銅鰐(こんどうわにぐち)」のレプリカ製作に取り組んだ事例も報告された。鰐口とは、神社などの正面に縄とともにつるされ、参拝者が縄でたたいて鳴らすもの。青銅のレプリカは精巧に再現され、実際に鳴らすこともできると話題になった。
同センターは産業振興の中核的技術支援拠点で、「産学公連携室」や「イノベーション推進センター」などを設置し、地域イノベ−ション、モノづくり力の高度化・ブランド化、地域の技術課題解決の推進に取り組んでいる。やまぐち3Dものづくり研究会は、モノづくり力の高度化・ブランド化推進の一環と位置付けられている。
イノベーションの地域性〜山口県といえば……
本州最西端の山口県は、中央に中国山地が横たわり、穏やかな瀬戸内海と荒々しい日本海に囲まれている。大小約240の島があり、海に浮かぶ橋も美しい。日本最大級のカルスト台地「秋吉台」や鍾乳洞「秋芳洞」など、特徴的な自然景観も多い。
坂の景色が美しい城下町、萩は、明治維新胎動の地。「松下村塾」を主宰した吉田松陰、その門下生の高杉晋作、久坂玄瑞、木戸孝允、初代内閣総理大臣となった伊藤博文などの出身地としても知られる。明治150年にあたる2018年は、全県で記念事業を展開している。
ふぐを始めとする海産物はもちろんのこと、江戸時代から伝統的に米づくりが盛んで、総耕地面積の約8割は水田、農業総生産額の約4割は米が占めている。
もともと農業県だった山口県だが、第一次世界大戦の好景気により造船業や化学工業が起こり、昭和初期には石炭業、電気事業が発展。この頃から工業県に転換し、高度経済成長期には重化学工業が発展し、石油化学コンビナートも形成された。瀬戸内海沿岸地域には多くの企業、工場が集積しており、事業所あたりの製造出荷額、従業者あたり製造出荷額ともに全国第1位である。
ここに注目! 編集部の視点
山口県では、やまぐち3Dものづくり研究会以外にも、県内企業のモノづくり基盤技術の高度化、ブランド化を促進する「やまぐちブランド技術研究会」、起業家マインドを持つ人材の育成・教育を行う「『志』イノベーション道場」、有機圧電フィルムを活用した用途研究や製品開発を推進する「山口県圧電デバイス研究会」、衛星リモートセンシング゙技術を活用した商品・サービスの開発を進める「衛星データ解析技術研究会」など、いくつもの研究会活動が行われている。
山口県独自の取り組みである「山口県技術革新計画承認制度」により、技術革新へのシナリオづくりから必要となる資金支援までを総合的に支援している他、連携のハブとなる「地域中核企業創出・支援カンファレンスチーム」も設置。産学公金が連携し、ネットワーク体制の構築、研究開発・技術開発支援、経営支援・成長支援の活動を通じて、地域経済けん引事業の創出・促進に取り組んでいる。
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