機械学習はどうやって使うのか――意外と地道な積み重ね:いまさら聞けない機械学習入門(後編)(4/4 ページ)
前編では、AI(人工知能)と機械学習、ディープラーニングといった用語の説明から、AIを実現する技術の1つである機械学習が製造業を中心とした産業界にも徐々に使われ始めている話をした。後編では、機械学習を使ったデータ分析と予測モデル作成について説明する。
5.作成した予測モデルをどう活用するのか
予測モデルを作成したら実際のデータを入力して予測スコアを出してみる。最近のツールでは、ただ予測スコアを算出するだけではなく、各入力データに対してなぜその予測スコアになったのか説明する機能を持つものが出てきている。
前編では、機械学習について説明よりも予測に重きを置いていると述べたが、ユーザーの要望として全くのブラックボックスを使うことへの不安もあるため、何らかの説明が要望されているのだ。ThingWorx Analyticsでは、入力変数のうち、指定した1〜5種類の重要な変数及びその値を感度分析により提示する機能を備えている(図6)。
予測モデルは、作成の際に使用したデータの傾向のままであれば問題無いが、時間の経過や諸条件の変化と共に予測精度が低下していくことが多い。この予測モデルの精度のモニタリングと見直しも人間が担う必要がある。新たなデータを追加して、予測モデルの再学習をするだけで済むこともあれば、入力変数を追加/削除してモデル作成をやり直すこともある(図7)。
前編でも触れたが、機械学習による予測システムは、各企業で重要なパートを担うことが多くなかなか実例を紹介することが難しい。そこでPTCは、パートナー企業と共同でThingWorx Analyticsのデモ装置を開発した。
図8は、フローサーブ(Flowserve)のポンプ機器の故障を予測するデモ装置である。ポンプはフローサーブ、センサーはNI(National Instruments)、アプリケーションを動作させるエッジサーバ機器はHPE(HP Enterprise)、そしてソフトウェアはPTCが提供することで実現した。
もともと構築されていたIoTによるポンプ機器の遠隔監視サービスアプリケーションに、ThingWorx Analyticsによる予測機能を付加させている。これによりポンプ機器の故障原因、及び3つの重要な部品について故障までの日数を予測できる。なお、フローサーブより提供されたデータに基づいて、あらかじめThingWorx Analyticsで作成した予測モデルを利用している。
デモ装置では、写真の右側に見える赤いバルブを手動で閉めて異常状態を発生させることで、ポンプの故障と似たような状況をセンサーに認識させて推定される故障原因および部品の1つの故障までの予測日数を表示している(図9)。
このデモにもあるように、機械学習を利用した機器の故障予測機能を実現するためには、機器メーカーとツールメーカーによる連携だけではなく、センサーメーカーやサーバメーカーとの連携も必要となる。
6.あれこれ考えずに、まずはやってみよう
機械学習は、あれこれと手間が掛かるように感じられるかもしれないが、まずはやってみるのが肝心である。結果が判定しやすく効果が大きいテーマに絞りデータを集めたら、手を動かして実際にやってみることで、どのくらいの手間がかかり、どんな成果が得られるのか知見を得ることこそが財産となる。
PTCでは、単にソフトウェアツールを提供するだけでは無く、機械学習を使ったデータの分析/予測について、データの編集や実証実験など立ち上げに必要となる技術支援を有償サポートで用意しているので、社内にデータ分析のエンジニアが不足している場合は検討していただければと思う。
前編、後編の2回にわけて機械学習の概要を紹介した。AIという実体の分かりにくい言葉から、より具体的なイメージを描いていただければ幸いである。そして、経験と勘だけではないデータの力を得るためにも、機械学習によるデータ分析/予測に取り組む企業が増えることを切に願う。
筆者プロフィール
西 啓(にし あきら) PTCジャパン 製品技術事業部 IoT/Manufacturing技術本部 シニアIoTプリセールススペシャリスト
2015年9月にPTCジャパンに入社し、現職。日本におけるIoTに導入される機械学習、ARといった新技術の紹介、提案を実践している。さまざまなパートナー企業との関係を構築し、エコシステムによるビジネス拡大を画策中
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