自動車の進化とともに100年に一度の変革期を乗り越える:自動車技術(2/2 ページ)
自動車業界における100年に一度の変革期とは何か、電動化の時代に向けた備えとは。国内外の自動車産業を取材・分析してきた自動車調査会社 フォーインの久保鉄男社長に話を聞いた。
あくまで今までの延長線
MONOist では自動車メーカーや部品メーカーは対策しようがないのでしょうか。
久保氏 「困った」と言っているだけではビジネスは回らないので、メーカーは内燃機関にも電動化にも気を配り、バッテリーの価格に応じてマイルドハイブリッドからハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVというように、電気の比率を変えていく戦略を取ることになる。
そのためには全ての技術を持っていないといけないし、いつでもどこでも条件に応じて比率を変えられるよう準備する必要がある。どこでもというのは、各国で規制もマーケットトレンドも異なるためだ。この極めて難しい方程式を解き、かつそこでもうけないといけない。規制に対応するだけではもうけは出ないからだ。だからEVだけなど特定の種類のみをやるのは意味がない。
ただし各社はそれぞれ得意な技術を持っている。それぞれのブランドイメージも技術に対する思い入れもある。それに応じた戦略に沿って、バッテリー価格をにらみながら、電気の比率を選んでいくことになる。
MONOist 繊細な対応が求められるということでしょうか。
久保氏 これは「デュアルストラテジー」と呼ばれている。「内燃機関の燃費を改善しよう、一方でバッテリーやEVにもしっかり取り組もう」ということで、要は「どちらも必要」な時代だ。そして「スケーラブル」、これはバッテリー価格に応じて比率を変えること。どちらの技術も持ち、かつその比率を変えられる「スケーラブル・デュアルストラテジー」といったものが求められている。だがこれは結局、今までやってきたことと同じだ。大きな変化だが、ビジネスのやり方としては、現状からそれほど大きく変化するわけではない。
マーケットの現実解ではない
MONOist ドイツは2030年までに内燃機関車の販売を禁止すると宣言しています。
久保氏 それは現実的だとは思っていない。何しろマーケットが選択できる状態になっていないからだ。だが、さっき言ったkWh当たり80ドルの世界がちらっと見え始めたのが2017年の初めだった。そのためEV推進に関する計画がどんどん出てきた。フランスやイギリスは2040年までに内燃機関車の販売を禁止する方針を発表した。ただ実際に達成できるかは別の話だ。
マーケットを見てみると、中国では2017年のSUVの販売数が1000万台だった。米国も車体が大きく、ピックアップトラックの横でカローラクラスに乗っていると身の危険を感じる。また冬場はEVの走行距離が大幅に下がる。カリフォルニアのように気候が安定して移動も長距離でなければよいが、中西部のようなマイナス15度にもなる場所だと立ち往生した途端に命の危険にさらされる。一方、欧州のアウトバーンは高速だ。EVは高速走行には向いていない。
また日本は世界でもっともダウンサイジングされたマーケットだ。人気のある軽自動車は十分燃費もよく、EVの入る余地はあまりない。このように現在のEVはマーケットの現実解ではない。
自動車の進化の時を乗り越える
MONOist マーケットのニーズが根本にあると?
久保氏 電動化もデジタル化も、現実路線の延長にあるということを忘れずにいることが重要だ。ただその中でも大きく変わる点は出てくる。バッテリー価格も想定より早く安くなるかもしれない。その時に対応する準備はしておいた方がよい。ある意味、自動車が進化の段階にある今、みんなで頑張ろうという意味で100年に一度の変革期という言葉が使われている面もある。
完全な自動運転化ははるか先だし、専用道路や速度制限など限定された条件でしか使われることはないだろう。自動運転技術を使って安全性をどれだけ高められるのか、実用の技術に落とし込めるのかが現在取り組まれていることだ。
こうしてみれば今までやってきたことと、そう変わらないということが分かる。ただ、変化の速度は速い。新技術を取り込まないといけないし、のんびりしていると置いていかれる。インパクトの大きな中国の動きも見逃せない。中国は規制を作って電動化を推進している。日本が先に優れたEVを作って販売したり、部品を売り込んだりするチャンスでもある。
いつか内燃と電気の価格が釣り合う時代は来る
MONOist 慌てず冷静に動きを見ようということでしょうか。
久保氏 あまり危機感をあおっても仕方がない。やることは今までと同じといえる。過大評価も過小評価もせずにやっていくことが大事だ。
そして困った時にはマーケットを見ようと言っている。いくら電動化を推進するZEV規制やNEV規制があろうと、いくら補助金を付けようと、マーケットはちゃんと見ている。今、軽自動車を買っているメインストリームの人が、その代わりにEVを買う時代はいつ来るのか、そういうことは常に注視しておいたほうがいいだろう。これは普通に考えれば分かることのはずだ。
一方で、バッテリーの価格が下がり、モーターやバッテリーからなるEVと、エンジンやトランスミッションからなる内燃機関車の価格が一致する時は必ず来る。しかもバッテリーは大きいにせよ、エンジンとトランスミッションに比べて、モーターとギアのサイズは半分以下かつ非常にシンプルだ。温室効果ガス削減にも規制にも合致している。エンジンとトランスミッションがバッテリーやモーターに取って代わられる時代はいつか来る。そうなる時のために準備はしておくべきだ。
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