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スマート工場が5G待望のキラーアプリに、期待集めるネットワークスライシングIoTと製造業の深イイ関係(5)(3/3 ページ)

脚光を浴びるIoTだが、製造業にとってIoT活用の方向性が見いだしきれたとはいえない状況だ。本連載では、世界の先進的な事例などから「IoTと製造業の深イイ関係」を模索していく。第5回は、5Gとスマートファクトリーの関係性にスポットを当てる。

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スマートファクトリーに求められる5Gの特徴は低遅延でも安定性でもない

 ここまで述べた通り、5Gの特徴である低遅延や安定性はスマートファクトリーにおいて重要な要素ではあるが、ミュラー氏は「5Gは単なるワイヤレスコネクティビティではない」として「ネットワークスライシング技術」の重要性を強調した。

 ネットワークスライシングとは、「低遅延・高信頼・高セキュリティなど、さまざまな要求条件が求められる5Gにおいて、ネットワークを仮想的に分割(スライス)することで、お客さまが利用するサービスの要求条件に合わせて効率的にネットワークを提供する技術」(NTTドコモ)を指す。工場内の機械は、それぞれ用途や目的が異なる他、関連工場などとの連携なども必要になるなど、さまざまな目的により求められるコネクティビティの性質も異なってくる。その中で、5Gという同一通信環境上であたかも複数の異なる回線を運用しているかのように管理できることが非常に有効になってくるわけだ。

「MWC 2018」の講演でネットワークスライシング技術の重要性を強調するボッシュのアンドレアス・ミュラー氏
「MWC 2018」の講演でネットワークスライシング技術の重要性を強調するボッシュのアンドレアス・ミュラー氏

 そのため同氏は、通信事業者にネットワークスライシングに関する要求事項を複数提示した。その中で特に強調したのは、グローバルに拠点を持つ企業にとっては、国内だけでなく国を跨いだエンドツーエンドのネットワークスライスが必要だとして、各国通信事業者間の連携に加えて、さらにネットワークスライスのコントロール/運用をクライアント(例えばボッシュ)側に委ねることを求めた。

 同様のニーズは他の業界からもでてきている。具体的な要望が業界から上がってきたことは5Gのキラーアプリを模索していた通信事業者にとっても非常に好ましいことではある。しかし一方で、このような動的な制御などネットワーク運用の複雑化は、通信事業者にとって運用コストを増加させる懸念がある。さらに、これまでも通信ネットワークのダムパイプ化への対応を模索していた通信事業者にとって、帯域のコントロール権をクライアントに提供することにはすぐ同意したくない思いも出てくるのではないだろうか。

要求事項 概要
1 ユースケースごとのスライス 業界ごとに同スペックのスライスを提供するのではなくユースケースに応じた多様なスライス
2 サブスライシング 通信事業者が提供するスライスをさらにスライス可能にする
3 高ダイナミックスライシング スライス構築/解放までの時間はオーダ後10分以内に実施
4 既存技術とのインテグレーション さまざまな既存技術とのシームレス連携及びエンドツーエンドでのQoSの担保
5 SLAモニタリング リアルタイムで正確に、約束した品質が提供されているかをモニタリング
6 オープンインタフェース 企業独自の仮想網と通信事業者の通信網が混在するインフラを可能にする
7 海外通信事業者間連携 国際通信でのスライスを可能にする通信事業者間の連携
8 ディープスライシング 各拠点のアプリ間までのネットワークスライシング(ネットワークカードまでのスライスではNG)
9 低価格 シンプルで魅力的な料金設定
ボッシュが示したネットワークスライシングへの9つの要求事項 出典:ボッシュのアンドレアス・ミュラー氏による「MWC 2018」の講演資料

 ボッシュは、「(5Gのキラーアプリがないといわれていた中で)クルマよりも投資が少なくてすむインダストリー(製造業)が5Gのキラーアプリになる」と豪語する。もし、これが5Gのキラーアプリであり、需要があるならば、どこまで製造業のプレーヤーの要望に対応していくか、通信事業者が抱える課題はまだまだ多い。

筆者プロフィール

吉岡 佐和子(よしおか さわこ)

日本電信電話株式会社に入社。法人向け営業に携わった後、米国やイスラエルを中心とした海外の最先端技術/サービスをローカライズして日本で販売展開する業務に従事。2008年の洞爺湖サミットでは大使館担当として参加各国の通信環境構築に携わり、2009年より株式会社情報通信総合研究所に勤務。海外の最新サービスの動向を中心とした調査研究に携わる。海外企業へのヒアリング調査経験多数。



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