大阪の姉妹都市メルボルンに見る地域発デジタルヘルスの展開:海外医療技術トレンド(34)(3/3 ページ)
大阪市と1978年から姉妹都市提携を結んでいるオーストラリアのメルボルン市。両市の姉妹都市提携40周年事業の一環で開催された「メルボルン×大阪 ヘルスケア・イノベーション交流セミナー」の模様とともに、メルボルン市の先進的なデジタルヘルスの取り組みを紹介する。
地域からグローバルまでデジタルヘルス利用を実証する臨床施設
ビクトリア州やメルボルン市では、スタートアップ企業に限らず、地域の保健医療施設もデジタルヘルスの導入/活用に積極的だ。例えば図2は、2018年3月22日、ビクトリア州の母子保健サービス(MCH)がリリースを発表したモバイルアプリケーション「MCH App」である(関連情報)。
図2 ビクトリア州母子保健サービス(MCH)のモバイルアプリケーション「MCH App」(2018年3月リリース) 出典:State Government of Victoria「Download the Maternal and Child Health App」(2018年3月)
ビクトリア州政府が4年間にわたり総額93万オーストラリアドルを投資して開発したアプリケーションを、スマートフォン(iOS/Android)にダウンロードすれば、母子保健サービスの予約、季節の注意事項、役に立つ問い合わせ先一覧、Q&A集などの情報を、子どもの年齢や成育段階に合わせてオンラインで入手することができる。
次に図3は、メルボルン大学系列の王立子ども病院(RCH)が、小児患者の親や家族向けに開発・提供しているモバイルアプリケーション事例である。
王立子ども病院では、電子カルテの他、情報ポータル、院内案内、臨床診療ガイドライン、予防接種スケジュール、WHO電子ポケットブックなど、さまざまなスマートフォン(iOS/Android)向けアプリケーションを提供している。
さらにメルボルンでは、ネットワーク接続された医療機器のサイバーセキュリティ対策に関する実証実験も行われている。2017年9月13日、ビクトリア州保健省は、メルボルン西部地域で複数の医療施設を運営するウェスタン・ヘルスにおいて、イスラエルのスタートアップ企業バイオネクシス(Bio-Nexus)が開発したハッキング対策機器「Cyber-Nexus」400台を利用して、輸血ポンプ、インスリンポンプ、植え込み型除細動器、X線装置、血液用冷蔵庫、CTスキャンなど、さまざまな高度医療機器がネットワーク接続された状態下でのサイバーセキュリティ対策に関する実証実験を行うことを発表した(関連情報)。2017年8月に策定されたビクトリア州サイバーセキュリティ戦略(関連情報)に基づき、同州の公的セクターイノベーション基金から45万7000オーストラリアドルの拠出を受けて、機器の導入、スタッフ研修、実証試験、結果分析が実施されている。
グローバル・デジタルヘルス・パートナーシップに向けて
折しも中央政府レベルでは、2018年2月20日、オーストラリア・デジタルヘルス庁が中心となり、オーストリア、オーストラリア、カナダ、香港SAR、インド、インドネシア、イタリア、ニュージーランド、サウジアラビア、シンガポール、韓国、スウェーデン、米国、英国、世界保健機関(WHO)のデジタルヘルス専門家を首都キャンベラに招集して、「グローバル・デジタルヘルス・パートナーシップ(GDHP)」の発足会議が開催された(関連情報)。新しいパートナーシップでは、以下のようなトピックで各国/地域が協力することを表明している。
- 接続された、相互運用性のあるヘルスケア
- サイバーセキュリティ
- デジタルヘルスのアウトカムを支援するポリシー
- 臨床医と消費者の関与
- デジタルヘルスのエビデンスと評価
いずれのトピックも、地域/臨床主導型の産官学連携デジタルヘルスクラスタをめざすメルボルン市に関係のあるものばかりであり、これらの領域に地域発のスタートアップ企業がどう関わっていくかが注目される。また、メルボルン市との姉妹都市提携40周年を迎えた大阪市にとっても、長年培ってきた関係をデジタルヘルスによる地方創生/国際展開でどう生かせるかがが鍵となるだろう。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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