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「VRは13歳から」の根拠は不明確――VRの快適な視聴を実現するIPD調整ソフト製造業VR(3/3 ページ)

VRを快適に視聴する条件の1つに、個人の瞳孔間距離に応じた調整が挙げられる。だがこの調整は現在のところ容易ではない。今回は、IPDキャリブレーションソフトウェア「IPD-360VR」を開発したメンバーに、その効果や開発に至った背景を聞いた。

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なぜ考慮してないのか不思議だった

 安田氏はVRに関わる前からIPDの問題に取り組んできた。「バーチャルスタジオにおいて実写とCGの位置がずれないようにするためには、カメラレンズディストーション(映像のゆがみ)とカメラポジションに関するキャリブレーションが必要でした。それにずっと取り組んできた感覚からすると、VRではゴーグルレンズの位置やディストーション、ディスプレイサイズを考慮していないのが不思議だった。町田さんと話していて、『やっぱり必要ですよね』と。それで開発をスタートすることにしました」と安田氏は話す。

 実写でもCGでも、IPDの問題を理解せずにコンテンツを作ると目に悪い映像になってしまう。見やすい立体視映像を作るためには、ゴーグルの設計や画像表示方法、実写の撮影や加工方法、CGの左右カメラ設定、また加えてカメラワークの演出などに総合的に取り組む必要がある。だがハードウェアやコンテンツはそう簡単に後から変えることはできない。そこでIPD-360VRによって画像間隔を調整すれば、光軸のずれを吸収できる最も快適な状態を作ることが可能だ。

 またIPD以外にも立体視映像を作る際には気を付けるべきポイントがある。例えば2D映像だとカメラを持って走る演出があるが、同じような映像を3Dで作ると体験者は気持ち悪くなってしまう。立体感を強く印象付けるために急激に遠近感を変えるといった演出も酔う原因になる。極端な演出は視聴者の体調に悪影響を与えてしまうのだ。そういったことを避けるにはそれなりのテクニックが必要になる。そういった点において、3Dの映画は経験の蓄積もあり品質が高いという。

目はアナログ

 安田氏は、日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発プロジェクトで筑波大学らのAIを使った眼底画像の自動診断システムの開発を請け負うなど、より目の理解に踏み込んだ取り組みも行っている。「VRというと機械のようにデジタルな感覚で扱えるという印象を与えるようですが、VRを見る目はアナログです」と町田氏は話す。

 そもそもIPDといっても、どの位置にあるものを見るかによって変化する。また個人によっても見え方は大きく異なる。一定の割合の人は立体視自体ができない。はじめはすぐに酔っても、何度か体験することによって慣れることもある。また調整が多少うまくいっていなくても、動体視力のある人は瞬時に対象を捉えてしまうため「ちゃんと見えている」という評価になる。

 IPD-360VRによって、大きなずれを個人の目が対応できる程度にまで小さくすることができれば、立体映像の視聴ははるかに楽になると町田氏は狙いを語る。IPD-360VRでは、調整の際に複数ある選択肢から選んでもらう方式を取っている。1点を見てもらい、その状態で調整を行う方式だと、「目が見やすいように対象にあわせてしまう」からだ。

「13歳」は議論尽くされた数字ではない

 VRはおおむね「12歳、または13歳以上」というのが業界の常識になっているが、実際のところ、その根拠は明確ではないという。町田氏も参加している3Dコンソーシアムの立体視に関するガイドライン「3DC安全ガイドライン」では、過去の実験結果や参考文献から、立体視の能力は4歳ごろに完成することが示されている。他の視覚に関する機能も5歳ごろまでに安定するという。

 IPDに関してはおおむね13歳ごろまで広がり続けるため、それに合わせた環境を用意することができれば、小学生でも立体視は問題がないとも考えられる。また3D映画を見続けて斜視になったといった症例があるが、その際は、どの位置からどういった姿勢で、どの程度の時間視聴したかや、コンテンツ内容などの検証もする必要があるだろう。そういった分析によって、より信頼できる安全基準を作っていくことができるはずだ。

 「IPD-360VRのようにソフトウェアの方面からIPDの問題を提起することで、ハードウェアやコンテンツの作り方にまでIPDへの取り組みが波及していけば」と町田氏らは期待する。次も見たいと思わせるような体験こそが、VRの評価を高め健全な市場を育成することにつながると考えられる。そのためにも視聴者に適切な視聴条件やVR酔いなどの可能性も積極的に周知していくとともに、情報を的確に分析してより良い基準作りにつなげることが求められる。

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