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「アップル=ファブレス」はもう古い、モノづくりの王道へ回帰モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

法政大学イノベーション・マネジメント研究センターのシンポジウム「海外のジャイアントに学ぶビジネスエコシステム」では、講演「アップルのモノづくり経営に学ぶ」を開催。アップルの業績の変遷やモノづくりへの投資の変化などについて解説した。

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アップルが取り組んだ構造改革とは

 ジョブズ氏の復帰後の構造改革への取り組みだが、1998年には現CEOのティム・クック(Tim Cook)氏を招いて、サプライチェーン改革を実施した。バリューチェーンに関わる全ての工程で行い「その中でも大きかったのは製品開発・設計に関する施策だ。それまで約15の個別品目だったものを主要な3つの製品ファミリーに集約するという製品ラインアップの簡素化を進めた」(百嶋氏)。

 この取り組みは、調達や生産にも影響している。部品調達では、できるだけ業界標準品を使い、しかもサプライヤーには物流ベンダーが指定する共有倉庫に納品させるようにした。生産ではプリント基板の製造やシステムの組み立てをアウトソーシングに切り替えた。流通チャンネルについても代理店、認定再販業者、小売販路パートナーを大幅削減するなど戦略を見直した。2001年からは直営店(アップルストア)の展開を開始している。

 こうした施策により、在庫管理の変革が進み、需要予測の精度向上や在庫水準および関連コストの削減に成功したという。また、在庫陳腐化と過剰在庫に起因する財務リスクの低減、いくつかの共通部品の調達による部品コストの低減に結びついた。流通面でも流通チャンネルにおける在庫および関連する財務リスクを低減できた。

 結果的に、財務指標の1つであるキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC、売上債権回転日数+棚卸資産回転日数−買入債権回転日数)を大きく改善した。

モノづくりの王道を進むアップル

 サプライヤー、アウトソーシングに関する取り組みについてもアップルは上手にコントロールしている。アウトソーシングでは戦略的に丸投げ、任せきりにならないよう情報提供などを積極的に行っている。外部ベンターは切磋琢磨するコラボレーションパートナーとして位置付け、委託企業には専門的知見とベンダーマネジメント能力を要求した。

 百嶋氏は「アップルはモノづくりの王道を歩む企業」として、製造委託先・サプライヤーの製造スペック・製造原価を厳格にコントロールして、サプライチェーンの隅から隅まで自らがデザインしマネジメントしているとする。実現したい理想の製品デザインがベンダーマネジメントの起点となっている。

 設備施設については「ファブレスモデルから、自らも設備施設負担を背負う設備集約型モデルへと切り替えた」(百嶋氏)と指摘する。投資を進めているのは、1つは切削加工機やレーザー加工機などの工作機械で、それらは大量に購入し製造委託先にレシピを添えて貸与している。

 もう1つはキーデバイスの製造装置で、中小型液晶パネル、NAND型フラッシュメモリなどの有力デバイスメーカーの投資資金を同社が負担し専用工場化するというものだ。

 その方式は2つあるという。1つ目は設備そのものをアップルが所有するやり方で、有形固定資産としてバランスシートにも記載している。2つ目のやり方は前払い金の支払いをして、設備投資をしてもらい長期供給契約を結ぶやり方だ。この取り組みを始めた背景には主力製品の競争激化があり、キーデバイスによる製品差別化と供給ソースの安定確保による新製品の垂直立ち上げが重要となったことによる。こうしたやり方はアップルの強固な財務体質があるからできるものだという。

 最後に百嶋氏はアップルの課題として「iPhone頼みの現状」を挙げる。「売上高の成長率(増収率)を抜本的に高めるためにはiPhoneに続く収益源の育成が必要。革新的製品・サービスの開発と販売が急がれる」(百嶋氏)としている。そして、アップルのモノづくり経営を学んだ上での、日本企業へのアドバイスとして「社会に役立つという高い志の実現のために、事業をやり抜く使命感・気概・情熱が何よりも重要」とし、「開発者・デザイナーがコストを意識せずに、顧客視点の最高のデザインの開発に専念できる組織体制を構築すべきだ」などと述べている。

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