スバルで社長交代、完成検査問題の前から経営陣の若返りを検討:製造マネジメントニュース
SUBARU(スバル)は、社長を含む役員の異動を発表した。専務執行役員で北米事業を統括する中村知美氏が代表取締役社長兼COOに昇格する。社長の吉永泰之氏は代表権のある会長に就任し、CEOを継続して務める。
SUBARU(スバル)は2018年3月2日、東京都内で会見を開き、社長を含む役員の異動を発表した。専務執行役員で北米事業を統括する中村知美氏が代表取締役社長兼COOに昇格する。社長の吉永泰之氏は代表権のある会長に就任し、CEOを継続して務める。
取締役会長の近藤潤氏、代表取締役 専務執行役員でCTO(最高技術責任者)の日月丈志氏、取締役 専務執行役員の笠井雅博氏は退任する。2018年6月に開催する定時株主総会での決議を経て正式決定となる。新体制移行後に、新たな中期経営計画も発表する。
完成検査問題は社長交代のきっかけではない
スバルの完成検査問題が内部調査で判明する前の2017年9月ごろから、吉永氏は自身の退任による経営陣の若返りを検討していた。同時期に近藤氏や日月氏、笠井氏も退任の意思を示しており、4人の経営陣が共通して後任の候補に挙げたのが中村氏だった。中村氏はスバルオブアメリカ(SOA)の会長として米国に駐在しており、2017年末に帰国したタイミングで人事を打診した。
会見では、2018年4月1日付の組織改正も発表した。「正しい会社推進部」「コンプライアンス室」「技術統括本部」の3つを新設する。
正しい会社推進部は、顧客や社会からさらに信頼される会社となるための全社的な活動を企画、推進する。コンプライアンス室は全社的な法令順守への取り組みをさらに強化するため独立した組織として設ける。正しい会社推進部とコンプライアンス室は、吉永氏や取締役 専務執行役員でCFO(最高財務責任者)の岡田稔明氏が担当する。
吉永氏が代表権のある会長に就くのは、完成検査問題などで明らかになった企業体質の課題改善に取り組むためだという。「不正のけじめをつけ、責任をとる上では、後任に投げて逃げないことが大事だと考えた。今回発表した経営体制は2トップ体制ではない。渡せる仕事は渡して、中村氏の邪魔にならないように連携しながら残りの仕事をこなしていく」(吉永氏)。
吉永氏は、完成検査の工程の中で起きていた燃費性能のデータ書き換えの問題が、最終調査の段階に来ていると説明した。完成検査の中での抜き打ち検査に対応する形で、燃費や排気ガス性能のデータ書き換えが行われていた。開発工程での書き換えではないため現在発表しているカタログ値に変更はなく、検査基準値内で品質には影響しない範囲内だという。しかし、データの書き換えは問題であると認識し、「完成検査と同様に、企業風土に反省すべき点があった。最終報告がまとまり次第、別途公表する」(吉永氏)としている。
また、技術統括本部は広範囲に高度化が進む技術開発課題に対応するため、技術開発全般を統括する機能を本部組織とする。技術統括本部長は、2018年4月1日付で取締役 専務執行役員に昇格する野飼康伸氏が務める。野飼氏の現職は原価企画管理本部長 兼 事業企画部長だ。
外からスバルを見つめてきた経験を生かして
中村氏は1959年5月生まれの58歳。1982年に富士重工業(現スバル)に入社した。経理部財務課に配属された後、吉永氏と同じようにスバル特約店に出向して自動車の販売の現場に立った。
3年間の出向の後、パワーユニット系の製造と開発を担う当時の三鷹製作所(現東京事業所)で工場の人事や労務を経験。国内営業本部で特約店の販売支援やマーケティング推進部長、営業第一部長を務め、2009年からは戦略本部でスバル全体の経営戦略に携わり、2011年に社長に就任した吉永氏の下でも経営企画部長を務めた。
2013年から海外営業部門に移り、その翌年からスバルオブアメリカの会長として北米販売の最前線に立った。
中村氏は「自動車業界が大きな変革期にある中で拝命し、身の引き締まる思いだ。海外、最重点市場である米国から、また、特約店など販売の最前線から、スバルを見てきた。その中で垣間見えた強みや弱みを自分なりに経営のかじ取りに生かしていきたい」と抱負を語った。
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