ゆるく気軽に“鯖江”を体験してほしい――ゆるい移住(福井県):地方発!次世代イノベーション×MONOist転職
「次世代の地域創生」をテーマに、自治体の取り組みや産学連携事例などを紹介する連載の第13回。今回は、福井県鯖江市で実施された「ゆるい移住」というユニークな移住体験プロジェクトを紹介する。
イノベーションの概要
「ゆるい移住」とは、福井県鯖江市が2015年度に取り組んだ実験的なプロジェクトである。人口減少の問題への施策として、県外からの移住の促進に取り組んでいる自治体は珍しくないが、「ゆるい」というのはどういうことなのか。
一般的な移住施策では、農業など地場産業に従事することや、その地域が伸ばしたいと考えている技術などを持っていること、あるいはそこで起業することなど、その地に根を下ろすという目的が前提になっていることが多い。しかし、ゆるい移住は「まずは気軽に住んでみて、市の職員や地域の市民・団体などと自由に関わり合いながら、田舎のまちをゆるく体験」してもらうことが目的。市が管理している3LDK(約75平方メートル)の住宅2戸を、体験移住者用に最大半年間、家賃無料で貸し出し、そこで共同生活をしながら自由に過ごすというプロジェクトで、地元での就職や定住も要求しなければ、体系立てた支援プログラムもない。
2015年10月から2016年3月まで実施されたゆるい移住には、さまざまなバックグラウンドを持つ15人が参加した。ゆるく移住している人たちと市の職員などが意見交換を行う月1回のワークショップのほか、飲み会も度々開かれるなど、地元の人たちとの交流が行われ、半年の共同生活後も、鯖江の近隣に住んだ人や、たびたび訪れる人もいるそうだ。
イノベーションの地域性〜福井県といえば……
都道府県魅力度ランキング2017では39位だった福井県だが、福井県内には国内外で上位のシェアを占める製品や、オンリーワン技術を有する企業が多い。また景勝地として有名な東尋坊、永平寺、「フクイサウルス」や「フクイラプトル」といった恐竜などでも知られている。
「めがねのまちさばえ」を掲げる鯖江市は、昔からメガネ、繊維、漆器の地場産業が盛ん。メガネフレームは国内シェアの96%、越前漆器は業務用漆器の国内シェア8割を占める。同時に「データシティ鯖江」として、日本の自治体では最初にオープンデータに取り組んでおり、データを活用して多くのアプリも開発されている。2014年からは、女子高校生(JK)たちが自ら考えて街づくりを具現化する「鯖江市役所JK課プロジェクト」も実施しており、市民協働・市民主役の街づくりを形にした事業として全国から注目されている。
また2004年の福井豪雨をきっかけに2006年からスタートした「河和田アートキャンプ」は、アートやデザインを通じて地域課題と向き合い、世代をつないでいくアートイベントとして、毎年開催されている。
鯖江市が国勢調査などのデータを基にまとめた資料によると、同市の人口は着実に増加しているが、4人に1人が高齢者で、2020年以降は人口も減少に転じると予測されている。しかし伝統的な技、先端の事業、ゆるめの取り組みと多方面から地域を活性化することで、多様な人が集まる場所になっていくのかもしれない。
ここに注目! 編集部の視点
移住プロジェクトは、実は現在は休止中。しかし無料で貸し出せる住宅などの環境が整えば、再開するとしている。ゆるい移住はもちろん、その他の実験やプロジェクトも含めた福井県鯖江市の取り組み全体が、街づくりのイノベーション。さまざまな感性や技術、興味を持った人たちが集まれば、それまでになかった化学反応が起きる。ゆるさから生まれる新しさに期待したい。
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