コネクテッドカーに「完成」はない――ベクターコンサルティング:特集「Connect 2018」(3/3 ページ)
Vector Consulting ServiceのChristof Ebert(クリストフ・エバート)氏に、自動車の開発プロセスはどのように変わっていくべきか、今後の在り方を聞いた。
自動車から「完成」という概念がなくなる
MONOist 自動車業界はセキュリティに対する理解が不足しているという声があります。
エバート氏 自動車業界はセキュリティにこれまでも取り組んできた。ECUのフラッシュブートローディング、キーレス化と盗難対策、中古車販売でのメーター戻しなどがそうだ。しかし、クルマが外の世界とつながるようになる。これまで外部と接続するのはOBD(車載自己診断機能)くらいだったが、USBやイーサネットなどさまざまな入口が増えて行くことにより、ITを対象とした攻撃がクルマにも仕向けられるようになる。また、車内でもECUの搭載数が増加して複雑化している。その中で、セキュリティの取り組みが足りているとはいえない。
MONOist 機能安全とセキュリティの開発プロセスを融合すべきだと考えていますね。
エバート氏 機能安全を満たすプロセスの導入は、製造物責任を果たす上で必須だ。今後は、サイバー攻撃によってECUの通信が遮断されたり、中身が書き換えられたりする可能性が出てくる。サイバー攻撃が機能安全を損なわないように、できるだけ近いところでプロセスを進めて行くべきだ。
MONOist 機能安全規格に準拠したプロセスの導入には、多くの企業が時間を要しました。セキュリティでも同じように時間が必要なのでしょうか。
エバート氏 新技術、コストと効率、安心安全の全てを、どれも落とさず実現するには重く動きにくいプロセスから、よりアジャイルな開発ができるプロセスに変わるべきだ。今、重要なシステムにも使えるアジャイル開発の手法が出てきている。安心安全を担保しながら、継続的に改善するプロセスに替えることで、コスト低減と新技術の採用を進められれば理想的だ。
MONOist 具体的にはどのような手法がありますか。
エバート氏 スクラムという手法がよく使われる。スクラムを階層化することで、サプライヤーを巻き込むことができ、要件と最終製品の間で一貫性を保つことができる。しかし、ITと全く同じ進め方である必要はない。段階ごとに出していくやり方をとり、品質を確認しながら、複雑なシステムであっても改善しながらその都度市場投入していくことが可能になる。
MONOist 完全に完成していないものを投入することになりかねませんか。
エバート氏 “完全”の定義にもよるが、安全性が80%のものを世に出すことは許されない。しかし、サービスに関して100%完成することはあり得ない。どんどん追加され、新しくなるので、完成という概念はないからだ。ITやスマートフォンの世界に完成という概念がないように、自動車からも完成という概念は消えて行くのではないだろうか。
関連記事
- ≫特集「Connect 2018」
- クルマが本当に「走るスマートフォン」になる日、カギはからっぽのECU
つながるクルマに関連した技術や製品は、これまでにも多くあり、現在も開発が進められている。しかし、それだけでは「走るスマートフォン」にはならない。スマートフォン並みにクルマの自由度を高めるには何が必要か。 - 次世代AUTOSARに照準、世界トップクラスのOSベンダーへ――イーソルCTO権藤氏
創業から43年を数える老舗組み込みベンダーのイーソルは、メニーコア/マルチコア対応の次世代製品「eMCOS」の展開を拡大しようとしている。同社 取締役CTO 兼 技術本部長の権藤正樹氏に、eMCOSの開発経緯や、eMCOSをベースにしたAUTOSARへの展開、IoT時代に対応するアジャイル開発への取り組みなどについて聞いた。 - 仮想化なしで次世代と現行のAUTOSAR混在環境が可能に、オーバスが開発中
デンソー子会社のオーバスは、「オートモーティブワールド2018」において、次世代AUTOSARであるAUTOSAR Adaptive Platform(AP)に対応するOS「AUBIST Adaptive OS POSIX」のデモンストレーションを披露した。 - AUTOSARとは?/What is AUTOSAR?−2015年版−(前編)
量産車にもすでに適用されている車載ソフトウェアの標準規格「AUTOSAR」。しかし現在も、AUTOSARとそれを取り巻く環境は刻々と変化している。本連載では、2011年に好評を博したAUTOSARの解説連載「AUTOSARとは?」の筆者が、2015年現在のAUTOSARの仕様や策定状況、関連する最新情報について説明する。 - カルソニックカンセイが車載セキュリティで新会社、「ITをクルマに合わせていく」
カルソニックカンセイは車載セキュリティの脅威分析やゲートウェイの開発などを手掛ける合弁会社「WhiteMotion(ホワイトモーション)」を設立した。フランスのセキュリティ関連企業のQuarkslabと折半出資。拠点はさいたま市北区のカルソニックカンセイ本社内に置く。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.