カルソニックカンセイが車載セキュリティで新会社、「ITをクルマに合わせていく」:車載セキュリティ
カルソニックカンセイは車載セキュリティの脅威分析やゲートウェイの開発などを手掛ける合弁会社「WhiteMotion(ホワイトモーション)」を設立した。フランスのセキュリティ関連企業のQuarkslabと折半出資。拠点はさいたま市北区のカルソニックカンセイ本社内に置く。
カルソニックカンセイは2017年7月18日、車載セキュリティの脅威分析やゲートウェイの開発などを手掛ける合弁会社「WhiteMotion(ホワイトモーション)」を設立したと発表した。資本金は2000万円で、フランスのセキュリティ関連企業のQuarkslabと折半出資とした。拠点はさいたま市北区のカルソニックカンセイ本社内に置く。
ホワイトモーションの社長は日本マイクロソフト出身の蔵本雄一氏が務める。会長にはカルソニックカンセイ 常務執行役員 電子事業部長の石橋誠氏とQuarkslab 社長のFred Raynal氏が就任した。異業種同士が合弁会社を通じて協力することにより「ITとクルマ、それぞれの得意分野と弱みを補完し合う」(蔵本氏)ことを狙う。
カルソニックカンセイ本社で記者向けに説明会を開き、新会社の役割や狙いを語った。
Quarkslabとは何者か
LTE通信やWi-Fiなど車両が外部と通信する機能が普及し、自動車のサイバーセキュリティ対策の重要性が増している。自動車メーカーから、ティア1サプライヤーであるカルソニックカンセイに対してもセキュリティ対応への期待が高まっていたが、サイバーセキュリティはサプライヤーとしての従来の技術・ソフトウェアの延長になく、未知の領域だったという。
合弁相手のQuarkslabはカルソニックカンセイの既存の取引先ではなく、セキュリティのイベントで縁のあった在日フランス大使館から紹介を受けた。カルソニックカンセイは車載セキュリティに外注で取り組むことも検討したが、詳細がブラックボックスとなる可能性もあることから合弁会社を立ち上げることを選んだ。
「自動車業界は100年以上の歴史があるが、IT業界はずっと若い。100歳を超えた老人ともいえる自動車業界の目線で経営するよりも“若者”に任せたい」(石橋氏)との考えから、IT業界出身である蔵本氏を社長に任命した。
Quarkslabは従業員50人、設立2011年の新しい会社だが、MicrosoftやAdobeなどを顧客に持つ。社長のRaynal氏は航空機大手のエアバスでエンジニアとしてセキュリティに携わっていたこともあり、輸送機器のセキュリティに近しい。「Quarkslabは技術者集団で、事務所に出勤するばかりでなく、リモートワークで世界各国に顧客を持っているのが特徴」(石橋氏)。
自動車業界はセーフティに偏り過ぎる、IT業界はセキュリティに寄りがち
ホワイトモーションでは、電波暗室やシャシーダイナモなどを使った実走行環境に即した脅威分析、ECUごとの脆弱性評価、エンジニア向けのトレーニングといったサービスを提供する。また、情報の難読化ツールといった製品の他、カルソニックカンセイが持つゲートウェイなど電子機器にホワイトモーションのセキュリティソフトウェアを搭載するなどして展開していく。
ホワイトモーションの従業員数は5〜6人に留まるが、実際のプロジェクトでは双方の親会社の人員も参加し、50〜60人規模で活動する。カルソニックカンセイの開発拠点の設備や、開発中の車両の扱いのノウハウも活用していく。
当面は車載セキュリティに注力するが、「応用が利く製品やアプローチが似た分野に参入していく計画はある。ハードウェアに制限がある中でセキュリティを実装するノウハウは生きる」(蔵本氏)としている。
蔵本氏はホワイトモーションの強みについて、セーフティ(機能安全)とセキュリティを両立していけることを挙げた。自動車業界はサイバーセキュリティが手薄で、IT業界はセーフティが抜けている傾向があるという。「防御、検知、被害を軽減する対処、迅速な復旧の各段階で対策を講じることはIT業界では一般的。自動車業界ではゲートウェイや車載ネットワーク、ECUをどうするかという切り口でのみ考えられていて、“攻撃されない”だけでなく“攻撃された後にどうするか”という議論が進んでいない」(蔵本氏)と指摘。
蔵本氏は、IT業界にハッキングに対するソリューションはたくさんあると前置きした上で「本当にクルマで動かせるソリューションなのかが問題だ。メモリとパワーがない中でITの知見をどう生かせるか。よりよいチップが将来使われることは間違いない。しかし、それまでの過渡期に適した、『べき論』だけでない現実的な解を出す必要がある。また、クルマはセキュリティライフサイクルが長く、販売された後も簡単に変更できない。これは仕方のないことだ。IT業界の中でもインフラなど年単位で改修に取り組むものもある。クルマに合わせてITを生かしていく」と、クルマに歩み寄ったセキュリティを提供する考えを示した。
独立系サプライヤーとして
カルソニックカンセイの親会社は、2017年3月に日産自動車から投資ファンドのKKRグループに異動した。東証一部への上場は2017年5月に廃止している。それまでは日産自動車が株式の41.5%を持つ筆頭株主で、日産系列のサプライヤーだった。
独立系サプライヤーになったとはいえ系列を離れて1年未満の今は“日産色”が残る。蔵本氏は「ホワイトモーションは車載セキュリティのレベルを高めるという社会的使命と公益性を重視した会社。競合は意識せず、自動車メーカーやサプライヤー、IT企業、みんなと組みたい」と語った。
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