深層学習のアルゴリズムをGPU以外のさまざまなハードウェアに、AImotiveのIP:車載半導体
菱洋エレクトロとAImotiveは、GPUで開発したディープラーニング(深層学習)のアルゴリズムをGPU以外でも動作できるようにするハードウェアアクセラレータIP「aiWare」を発表した。
写真左から菱洋エレクトロ 営業推進本部 自動車推進グループ シニアエンジニアの横山治彦氏、同社代表取締役社長の大内孝好氏、AImotiveのアクセル・ビアルケ氏とマートン・フィーハー氏。AImotiveと菱洋エレクトロで共同開発した実験車両の前にて(クリックして拡大)
菱洋エレクトロとハンガリーのソフトウェア企業AImotiveは2017年12月11日、東京都内で会見を開き、GPUで開発したディープラーニング(深層学習)のアルゴリズムをGPU以外でも動作できるようにするハードウェアアクセラレータIP「aiWare」を発表した。会見会場では、FPGAに「aiWare」を搭載し、GPUと同じ物体識別のアルゴリズムを動作させて比較するデモを実演。消費電力をGPU比で2割程度に抑えながら、90%以上のコア利用率で同等に機能する様子を示した。
IPは半導体メーカーに向けて提案する。菱洋エレクトロは国内で技術面のサポートを行う。このアクセラレータは、半導体メーカーやIT企業で策定中の規格「NNEF(Neural Network Exchange Format)」に準拠。IPの採用が拡大すれば、ティア1サプライヤーは開発したアルゴリズムを実装するハードウェアの選択肢が増えることになる。
AImotiveは2015年7月に設立された企業で、車載向けのディープラーニング開発に特化している。分社化する前のKishontiの時代から含めると約10年にわたり、主にGPUとディープラーニングに携わってきた。
aiWare以外の製品は自動車メーカーやティア1サプライヤー向けに提供している。Groupe PSA(プジョーシトロエン)やVolvo Cars(ボルボ)への納入実績がある。ディープラーニングを使って自動運転レベル4相当の認識やパスプランニングを行うソフトウェアプラットフォームの他、カメラやライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)、ミリ波レーダーなどセンサーのシミュレーションツールを持つ。
AImotiveのチップ技術責任者であるマートン・フィーハー(Marton Feher)氏はGPUの課題について、消費電力の高さやレイテンシ(遅延時間)を挙げた。また、ハードウェアの理論上の性能は発揮できていないと説明した。GPU以外のハードウェアにも一長一短があり、人工知能(AI)向けに専用のアクセラレーターが不可欠だとする。
AImotiveはNNEFをサポートする点をaiWareの特徴として挙げる。NNEFはディープラーニングのアルゴリズムを、さまざまなハードウェアに搭載できるように変換する規格。「学習は従来のようにサーバで行って構わない。アルゴリズムを車両に搭載する時にGPU以外の選択肢を選べるようにするのが目的だという。自動車メーカーやティア1サプライヤーはそれぞれのモデルに搭載するECUのハードウェアに合わせて、アルゴリズムを再利用できるようになる」とAImotiveの日本担当責任者であるアクセル・ビアルケ(Axel Bialke)氏は説明する。
NNEFは、APIのオープンな標準規格の策定を目的としたコンソーシアムであるKhronos Groupeが2016年秋から策定を始めた規格。Khronos Groupには半導体メーカー各社や大手IT企業などが多数参加しており、AImotiveがNNEFの企画を主導。暫定版のバージョン1.0が既に完成しており、正式版も近く発表する予定だという。機械学習の各種フレームワークに対応する。日本ではルネサス エレクトロニクスがNNEFへの対応に積極的だという。
今後AImotiveが重視するのは、半導体メーカーの製品開発計画を踏まえたaiWareの提案だ。「何年後にどういったスペックを投入するか、各社ともロードマップを定めている。その中で、IPを搭載するのがどのようなスペックの半導体であるべきか、検討していかなければならない。ハイパワーの半導体でなければならないとなると、GPUに対する強みが発揮しにくくなってしまう」(AImotiveの説明員)。
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