哺乳類の呼吸は酸素だけでなく硫黄も取り込む、エネルギー産生に重要な役割:医療技術ニュース
東北大学は、酸素の代わりに硫黄代謝物を利用した「硫黄呼吸」が哺乳類のエネルギー産生に関与していることを発見した。今後、硫黄呼吸を制御することで、呼吸器疾患や心臓疾患、がんを予防し、治療する方法の開発につながることが期待される。
東北大学は2017年10月25日、酸素の代わりに硫黄代謝物を利用した「硫黄呼吸」が、哺乳類のエネルギー産生に関与していることを発見したと発表した。同大学大学院 医学系研究科 教授の赤池孝章氏らのグループと、同大学加齢医学研究所 教授の本橋ほづみ氏、生理学研究所 教授の西田基宏氏らの共同研究によるもので、成果は同月27日、英科学誌「Nature Communications」に掲載された。
硫黄代謝物を利用した硫黄呼吸が、哺乳類のエネルギー産生に関与しているということは、従来の定説を覆す発見となる。今後、硫黄呼吸を自在に調節し、生体内のエネルギー産生量を増加させることで、老化防止をはじめ、慢性難治性の呼吸器疾患、心臓疾患を予防・治療する手法の開発につながることが期待される。
また、酸素が少ない状況でも増殖できる悪性腫瘍(がん)は、硫黄呼吸を積極的に利用していると予想される。このことから、硫黄代謝物をバイオマーカーに用いるがんの診断法、硫黄呼吸の制御によるがんの予防法や治療法の開発も期待される。
赤池氏らはこれまでに、硫黄が含まれるアミノ酸のシステインにさらに硫黄を付加したシステインパースルフィドが、哺乳類の生体内に多量に存在することを明らかにしてきた。今回の共同研究では、ミトコンドリアにおけるシステインパースルフィドの新しい代謝経路を発見。エネルギー産生の過程で、酸素の代わりに硫黄代謝物が利用されていることを解明し、この新しいエネルギー産生経路を「硫黄呼吸」と名付けた。
さらに、硫黄呼吸に必要な硫黄代謝物を処理できないマウスを作製したところ、正常のマウスに比べ、著しく成長が悪くなることが分かった。このことから、硫黄呼吸は生命活動に重要な役割を果たしていると考えられる。
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