海運業界はAIが誘う「スマートコンテナ」で約束の海へ向かうのか:IHS Industrial IoT Insight(9)(2/2 ページ)
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。今回は、海運業界におけるAIを活用した「スマートコンテナ」の可能性について紹介する。
フレックスポートCEO「サプライチェーンはAI活用の豊かな土壌」
「サプライチェーンのように数多くの変数が互いに依存し合う複雑な世界は、AI活用の豊かな土壌であるはずだ」。こう語るのは、米国のサンフランシスコに拠点を置きAI技術を製品に組み込む動きを進めるデジタル海運の新興企業であるフレックスポートのCEOであるライアン・ピーターセン(Ryan Petersen)氏である。
続けてピーターセン氏は「荷主らは貨物をいつ、どのように輸送するかという決定をより的確に行うことにより、必要な運転資金や輸送時間、ロジスティクスコストなどを自社の選択に基づいて削減するという恩恵を得られる」と述べている。
大衆文化で人間のように話をして応答する、フィクション世界のロボットと最もよく関連付けられるのがAIという言葉であり、AIはロボットの設計や製作からドライバーレス(自動運転)の自動車、コンピュータビジョン、画像からのデータ抽出まで広範囲にわたるデジタル性能を指す。
海運やロジスティクス業界では、AIの活用は現在、異なるソースからのデータを分析し体系化した上で、そのデータを具体化する。場合によっては人間によるインプットを削減または排除した意思決定の基盤として利用するための大規模な数値解析に最も重点が置かれている。
こうした性能は、AI技術の1つである機械学習によって強化される。機械学習では、結果から得られた知識に基づいてアルゴリズムがデータを分析し、より精密な分析に応じてロジスティクスを継続的に調整する。
例えば、米国のオールド・ドミニオン大学で海運・サプライチェーン管理を研究する准教授のマンウォ・ウン氏による「港湾ターミナルの将来の必要条件を予測する数理モデル」の中核を成すのが機械学習である。
ウン氏のモデルでは、停泊している船舶、特定の日に発送する輸入コンテナ、受け取る輸出または空コンテナ、記録されるゲート搬出入などの各数値を分析する。同氏は、将来のシャシー需要のより正確な予測を可能にするアルゴリズムを作り上げるには機械学習の継続的な改良が必要だとしている。
米国の主要ターミナルの研究に自身のプログラムを活用したところ、シャシーを80%削減できることが明らかになった。「予測モデルの活用により、シャシー需要のより正確な予測だけでなく、不要なシャシーを削減することで、配置コストや環境への影響の軽減も可能になる」と説明している。
AI化の流れは刻々と変化する技術要素の活用が不可欠になろうとしている海運業界にとっても、潜在的なリスクから守る1つの手段といえるかもしれない。
プロフィール
ピーター・タスクウェル(Peter Tirschwell)
コンテナや海運輸送などで海運・貿易市場、グローバルサプライチェーンの複雑な動きを把握し、世界中の政府、荷主、海運業界に対して世界最大規模の海事データベースを駆使したソリューションを提供するIHS Markit Maritime & Trade部門に所属。海運輸送に関する市場調査で20年以上もリーダーシップを発揮してきた。海運業界向けの業界誌「The Journal of Commerce(通称:JOC)」の編集兼編集長も務める。
https://ihsmarkit.com/
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