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HILSによる故障診断機能のテスト(その2)いまさら聞けないHILS入門(12)(3/3 ページ)

車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、スロットルポジションセンサーと回転センサーの故障に関するテストについて紹介します。

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電磁ノイズ混入波形による回転センサー故障

 回転センサー入力回路に限らず、ECUの全ての入力回路は、電磁ノイズ(以下、ノイズと表記します)が侵入しており、信号の検出に影響を与えることがあります。一部は制御に影響を与えて、まれに深刻な故障を起こす場合があります。

 ノイズは、モーターなど大きな電流が流れる機器だけでなく、ほとんど全ての電子/電気機器から発生します。また、人がスイッチなどに触れるときに放電される静電気や、携帯電話や無線機、テレビなどの電磁波が侵入することもあります。

 これらのノイズによる影響評価ついては、電磁感受性(EMS:Electromagnetic Susceptibility)試験という、ECUにいろいろな方法でノイズを加える試験があり、JIS、JASO、ISO、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Commission)などの規格でノイズの発生源と伝達経路に応じた種々の試験方法が規定されています。同時にこれらの試験は、安全確保の上からも重要ですので、自動車など法規により試験が義務付けられています。

注:詳しくはEDN Japanの連載記事「超入門! ノイズ・EMCを理解しよう」や、パナソニック プロダクト解析センターの「イミュニティとは(EMS)」などを参照ください

 これらノイズのテストを行うには、実際にノイズや電磁波を発生して試験します。電線でつながっている電気/電子装置から発生するノイズについては、数十V〜数kVのノイズを発生する過渡サージ試験装置を、静電気については数十kVの静電気を放電する静電気試験機を使用します。電磁波の侵入については、100k〜1GHzの電磁波を発信する装置と、電磁波を外部に漏らさないためのシールドする試験装置などさらに大規模な試験装置が必要となります。これらの装置を電子システムに適用すると、通常の実機環境よりもはるかに強力なノイズがECUとハーネスに侵入し、ECUと同時にHILS回路にも侵入します。

電磁ノイズ混入による回転センサー故障のテスト

 ECUの許容限度までノイズを加えると多くの場合HILSインタフェースの電磁気耐性を越えてしまい、HILSが壊れてテスト不可能になります。従って、ノイズ侵入の影響についてのテストは、通常HILSでは行いません。

 しかし、まれに市場不具合の原因究明などでノイズの影響をテストする必要が生じることがあります。そのような場合、例えば、HILSで作動させているECUの回転センサーハーネスに過渡サージ試験を適用する場合には、ECUと過渡サージ試験機をHILSから遮断できる図8に示すような特別な試験環境を構築することで初めて可能となります。

図8
図8 過渡サージ試験装置とHILSを組み合わせたノイズテスト装置(クリックで拡大)

 図9は、図8の装置を使用して、リレーなどの接点が電流を遮断するときに発生するノイズが、回転センサー信号に侵入している状態を想定したテストの例を示しています。詳細なテスト方法の説明は省きますが、結果的にアイドリング回転中に回転波形に2倍の大きさのノイズを侵入させて、ECUのパルス波形整形回路を通過して、ECU内部のカウンター入力(連載第3回の図6参照)に到達している状態をイメージしています。

 このような事態が生じると、ECUは高周波ノイズのパルスを回転数として検出してしまいます。回転センサーのアイドリング時のパルスは、パルスリングの歯数が60枚、回転数が600rpmの場合600Hzとなります。10kHzのノイズが侵入すると周波数は、この13.3倍となります。ノイズを含んだセンサー波形が、波形検出の閾値を通過するときに、通常は検出しないはずのノイズ成分を検出して回転数パルスが瞬間的に1万rpmを検出してしまう現象が生じます。

図9
図9 10kHzのノイズが侵入した回転センサー波形のイメージ(クリックで拡大)

 その結果、ECUの制御に変化が生じる様子を観測します。このようなテストでは、通常の制御仕様の検証と異なり制御要件の適合性検証を行うのではなく、不具合として伝えられたシステム挙動を再現して、そこで起こっていることを明らかにし、不具合原因を究明することが求められます。

 不具合原因を究明したら、テスト条件を整理して設計仕様にフィードバックし、ECUの対策を行います。また、この不具合再現テストをもとに、既存のテスト仕様の修正や新たなテスト項目の追加を行います。そして、不具合対策品や以降の新製品の仕様にこの不具合に対するテスト項目を付け加えることにより、製品の信頼性を高めることが出来ます。



 以上、センサー故障のテストについて述べました。次回は、アクチュエーター故障のテストについて考えたいと思います。

筆者プロフィール

高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」

1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。

HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。


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故障 | テスト | ECU | 試験 | モデルベース開発


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