現場のノウハウ生かした新サービス、生産計画立案やCADから作業手順書を自動生成:製造業IoT
日立製作所は、工場全体の最適な生産計画を自動で立案する「工場シミュレーター」と3D CADのデータを基に作業手順書を自動生成する「組み立てナビゲーションシステム」を発表した。多品種少量の製品を組み立てる工場向けに、2017年11月から提供する。
日立製作所は2017年10月17日、東京都内で会見を開き、工場全体の最適な生産計画を自動で立案する「工場シミュレーター」と3D CADのデータを基に作業手順書を自動生成する「組み立てナビゲーションシステム」を発表した。多品種少量の製品を組み立てる工場向けに、2017年11月から提供する。
今回発表した2つのシステムは、日立製作所のIoT(モノのインターネット)プラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」の産業分野向けソリューションコアである。2017年7月に提供を開始した「進捗・稼働監視システム」「作業改善システム」に加えてルマーダのラインアップを強化する。2018年度までに国内工場100カ所への導入を目指す。
生産計画を柔軟に立て直す
工場シミュレーターは、設計から調達、製造、検査、出荷までの生産プロセス全体を対象に、製品の仕様や納期、生産能力などを考慮した中長期の生産計画を自動で立案するもの。これにより、納期や受注量の変更に対し柔軟に生産計画を再立案し、正しい納期を見通しを立てやすくする。
具体的には、原単位(生産手順や標準作業時間、リソース消費量などの基準を定めたもの)を基に、山積み(仕事量である負荷を期間別に順次に積み上げること)と山崩し(生産能力に合わせた生産計画の作成)を行い、作業負荷を平準化した生産計画を立案する。これにより、生産計画にかかる工数を30%削減できる。また、仕掛在庫の増加も抑制する。
一般的な生産スケジューラーでは部品構成表(BOM)を作成してスケジュールを管理する必要があった。多品種生産で使用部品が確定していない場合はBOMを作成することが難しかった。工場シミュレーターでは、類似製品をカテゴリーごとに分類して、仕様部品の定義が不要な原単位を用いることで簡易かつ正確に生産計画を自動で立案できるという。また、受注していない案件の納期予測にも対応している。
作業手順書は設計データから自動生成
組み立てナビゲーションシステムは、3D CADの設計データを3Dの作業手順書に自動で変換する。完成品のCADデータを独自のアルゴリズムで分解順序や手順を分析し、1作業につき1画面で、作業時の注意事項も含めて組み立て作業を理解できるようにすることで、作業者ごとの組み立て品質のばらつきを低減する。
現場の作業者は、3D CADデータを基に作成された製作図面に従って作業を行う。設計者にとっては製品の品種ごとに製作図面を作成する必要があり、仕様変更の度に図面を書きなおすため、負担が大きかった。現場の作業者も専門的な製作図面を読み解きながら作業しており、生産性を向上する上での課題となっていた。
20年分の失敗や成功をいいとこどり
ルマーダは、日立製作所での生産性向上の取り組みを汎用(はんよう)化し、サービスとして提供する。
産業分野向けには、制御機器の多品種少量生産を行う日立製作所 大みか事業所の20年分の取り組みが反映されている。「(同事業所には)成功だけでなく失敗もあった。成功事例だけを短期間で取り入れられるのがルマーダの強み」(日立製作所 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部 情報制御第三本部 本部長の大橋章宏氏)だという。大みか事業所を主体としたサービスの拡充は「今回で一段落。ただ、日立製作所全体でみると、もっとやれることがある」(大橋氏)としている。
生産性の向上は、日立製作所に限らず全ての製造業が取り組む課題でもある。そのため「日立のノウハウであるルマーダのサービスが、導入する顧客の工場にうまくかみ合わないこともあるだろう。そのため、画一的なサービスを提供するのではなく、顧客の実績を生かしながら部分的にわれわれのサービス取り入れることもある。ルマーダは単なるサービスの販売ではなく、“共創”を掲げる。顧客とのやりとりの中で得た気付きはルマーダに還元していきたい」(日立製作所 産業システムエンジニアリング部 部長の濱本洋一氏)。
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