PLM雌伏の10年、これからは飛躍の10年となるか:MONOist10周年特別寄稿(4/4 ページ)
2000年代前半から製造ITツール業界で話題になり始めた「PLM」。しかし、MONOistが2007年に開設してからこの10年間、PLMの実際の運用状況はPDMの延長線にすぎなかったかもしれない。しかし、IoTの登場により、PLMは真の価値を生み出す段階に入りつつある。
生産設備/ラインのデジタル化が不可欠
また、製品だけではなく生産設備/ラインのデジタルモデル化も重要です。新製品の市場化にあたり、どの既存生産設備を利用すべきか、あるいは新設しなければならないのか、既存の設備を活用するとして、どの程度の時間とコストをかけて修正すれば量産化できるのか、素早く複数案を検討できることが理想ですが、そのためには生産設備/ラインのデジタル化が不可欠です。
製品のデジタルモデルに比べ、生産現場では現場調整が多いことと、扱う設備の数が膨大となることもあり、最新の正しい生産デジタルモデルが定義されていることは少ないですが、最近の3Dスキャン技術の活用により生産設備/ライン全体のデジタル化も可能になっています。それらのデジタルモデルは、工程を含めた工場の構成ツリー(生産BOM)としてこれからのPLMの中核を担うと考えられています。
生産のデジタルモデルは、設備としての実際の振る舞い、つまりロボットであれば可動部の動き、工作機械であれば加工工具の工程まで含まれます。これらの現実の実績値は、まさにIIoT、ビッグデータ解析の対象として注目されており、その結果を改善につなげるためには、やはり物理現象⇔デジタルモデルのループが重要となります。具体的には、デジタルモデルと実際のPLCなどのコントローラーをつないで、バーチャル生産シミュレーションを行い、検証/改善を図っていくことになります。
生産工程の革新には、従来の物質除去型の形状生成だけでなく、付加製造(Additive Manufacturing)の工程も含まれますが、これも同様にPLMの一部となってきます。付加製造技術を装置化した3Dプリンタは、一般社会での流行は一息ついた感がありますが、非常に厳しい性能を要求される航空機部品などではその柔軟性から既に実用化されています。
付加製造による生産革新は、実はこれは製造領域だけではなく、CADデータを生成する設計領域にも影響をもたらします。中空の格子構造は今まで製造不可能でしたが、付加製造では可能となるため、そのような形状をデジタルで定義できることがCADの機能として求められます。また、生産の柔軟性は形状位相最適化の柔軟性にもつながり、従来は機械切削あるいは金型成形という製造上の制約からコストに合わなかった形状が、最適化設計の候補として考慮されるようになってきます。
最後に、生産設備依存型の大型の製造業であったとしても、地域や消費者の多様な好みに対応(マスカスタマイゼーション)するために、製品の派生(仕向地)を効果的に管理できる必要があります。
多くの企業で派生管理は部品表側で行っていますが、特に製品ライフサイクルの収益を予測/実績管理する上で、今後派生が多様化する場合重要になります。その上で、派生管理は性能シミュレーション、生産性/生産設備検討とも大きな関わりがあり、PLM側でも本質的に派生構成を管理することは、これからの重要課題になっています。
ここまで述べました通り、PLMの世界は次世代の製造業に貢献するため、さまざまな側面で今後大きく飛躍すると思われます。企業の側にとって、PLMが単なるIT側の課題ではなく、バリューチェーン全体を視野に入れた経営課題であることを認識することが、インダストリー4.0などのビジョンを実現する上で重要であることをよくご理解いただければと思います。
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