「回転偏波」で製造現場内の高品質な無線通信が可能に、日立が無線機を試作:組み込み開発ニュース
日立製作所は、コンクリートや金属などが密集し電波が届きにくい製造現場でも高品質な無線通信が可能になる「回転偏波無線機」の試作に成功した。今後は実証実験を重ねて開発と実用化を加速し、高い信頼性を要求されるIoTシステムへの活用を目指す。
日立製作所は2017年9月11日、コンクリートや金属などが密集し電波が届きにくい製造現場でも高品質な無線通信が可能になる「回転偏波無線機」の試作に成功したと発表した。今後は実証実験を重ねて開発と実用化を加速し、高い信頼性を要求されるIoT(モノのインターネット)システムへの活用を目指す。
近年、工場をはじめとする製造現場の高効率稼働などを目的として、機器に設置されたセンサーと無線通信ネットワークにより、機器の稼働状態を監視、制御するIoTシステムの普及が進められている。ただし、現行の無線通信には、電波の振動方向が変化せずに伝達する直線偏波が用いられており、製造現場のレイアウトや送受信機の配置によっては電波が届きにくくなるという課題があった。
この課題を解決すべく、日立製作所が2010年に考案したのが、偏波が回転する回転偏波を用いた無線通信技術である。これまで独自に原理検証を行ってきたものの、送信された回転偏波が、複数の方向から受信機に届くため、効率良く受信、復調することが困難(誤り率0.1以上)だった。
そこで同社は、回転偏波が受信機に到達するまでの複数の経路(伝搬路)ごとに偏波の受信状況を評価し、最適な偏波を選択した上で復調する技術を開発した。具体的には、まず電波によって送信されるデータ(パケット)の先頭部分を受信した際に評価し、最も良好に通信(誤り率0.01未満)可能な方向の偏波を選択。さらに、その後に続くデータ部分を受信する際に、選択した方向の偏波のみを抽出し、復調するというものだ。この技術を無線通信の受信機に用いることで、障害物の有無やレイアウトなどの影響を受けずに、良好な通信品質を維持可能な無線機を試作することができたという。
なお、開発成果の一部は、2017年9月12日〜15日に東京都市大学で開催される「2017年電子情報通信学会ソサイエティ大会」で発表される予定である。
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