第4のLPWA規格「IEEE 802.11ah」こと「Wi-Fi HaLow」は起動するか:IoT観測所(32)(1/2 ページ)
IoT(モノのインターネット)が話題になるとともに、LPWA(Low Power Wide Area)のネットワーク規格への注目も高まっている。現在有力とされいるのが「SIGFOX」「LoRa」「NB-IoT」だが、第4の候補になるかもしれないのが「IEEE 802.11ah」こと「Wi-Fi HaLow」だ。
ここ数回はLPWA(Low Power Wide Area)関係のネットワーク規格をご紹介してきたが、今回紹介する「IEEE 802.11ah」もやはり分類としてはLPWAに属する。
IEEE 802.11ahは、その名前が示す通り、IEEEで標準化策定作業が行われている規格で、分類としてはWi-Fiの一種(なので802.11の型番がついている)になる。Wi-Fiとの大きな違いは、周波数帯にサブ1GHz帯を使うことだろう。
実はこの規格、当初は2016年中に標準化を完了する予定だったが、少し作業が遅れている。この原稿を書いている2017年4月現在でも“Approved Draft Standard(ドラフト案を承認済み)”という段階にある。
ちなみにこのドラフト案(P802.11ah/D10.0)は2016年9月にリリースされており、タイムラインを見る限りはもう802 EC(Executive Committee)では承認が取得済で、後は最後の理事会による承認さえ取れれば標準化は完了というところまで来ていながら、何らかの理由で滞っているようだ。
逆に言えば、ここから大きく内容が変わることは考えられないので、機器メーカーなどはもう現在のドラフト案をベースに機器の設計などを開始している。
これに先んじて、Wi-Fi規格の標準化や普及、相互接続性試験などを行っている業界団体のWi-Fiアライアンスは2016年1月、IEEE 802.11ahに相当する規格を「Wi-Fi HaLow(ヘイローと呼ぶ)」を発表している。
IoTデバイスに対するWi-Fiのプレセンスを維持
このIEEE 802.11ahの目的は何か? というと、これもまた他のLPWAに属する規格と同じく、屋外にあるIoT(モノのインターネット)デバイスを接続することにある。こうしたデバイスの場合、速度は従来のWi-Fiほど必要ではないが、その代わりにより長い到達距離と、より少ない消費電力が必要となる。さらに言えば、IEEE 802.11ahが802.11でなければならない理由とは、IoTデバイスに対するWi-Fiのプレセンスを維持するためと言っても良い。
こうしたニーズに向けて、既存のWi-Fiの規格、特に802.11acをベースに、省電力向けにカスタマイズしたのがIEEE 802.11ahとなる。
具体的には、まず物理層で以下のような変更が行われた。
- 周波数帯として1GHz未満のISMバンドを利用する
- バンド幅には、新たに1MHz/2MHzを追加する(4/8/16MHzもサポート)
- 変調方式にはOFDMを利用する。ただし802.11acと比べてクロックを10倍遅くする。これにより、シンボルの送信間隔を4μsから40μsに伸ばす
- OFDMのサブキャリアの数は同じままとする。この結果、帯域そのものも10分の1となる
- MIMOとMU-MIMOをサポートし、最大4ストリームを可能とする。ただし必須なのは1ストリームで、2ストリーム以上はオプション扱い
バンド幅の変更に関しては、ISMバンドは国によって利用できる周波数帯が異なる上、その帯域が狭い国(韓国だと917.5〜923.5MHzの6MHz、シンガポールは866〜869MHzと920〜925MHzで、それぞれ3M/5MHz)があるので、4MHzのままだと1チャネルしか確保できない事情に対応した形だ。
この結果、通信速度は150Kbps(BPSK 1/2、1ストリーム、1MHz、ロングガードインターバル)〜347Mbps(256-QAM 5/6、4ストリーム、16MHz、ショートガードインターバル)と随分幅がある。ただし仕様上は256-QAMとか帯域16MHzを許すといっても、そもそも16MHzもの帯域が確保できるのは米国と中国だけで、他の国ではそもそもこんな帯域は取れないし、IoTデバイスが4ストリームMIMOに合わせてアンテナを4本も立てられるとは思えない。現実問題としては、最小の150Kbpsが一番広く使われる速度となるだろう。とはいえ、例えばSIGFOXなどに比べると比較にならないほど高速なのだが。
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