製造業の今までの10年、これからの10年(後編):MONOist編集部が語る(3/4 ページ)
2017年8月1日に10周年を迎えたMONOist。それを記念して編集部員が製造業とMONOistのこの10年と将来について語った。笑いあり、涙ありの熱いトークバトルの後編をお届けする。
製造業が現在抱える課題
ミシマ 今、それぞれの分野の取材を重ねてみて、製造業が現在抱える課題について、それぞれの立場でどう見ていますか?
コバユミ 私は座談会前編でも話した通り、設計現場で変わらない部分が悪い意味で残り続けるのではないかという点ですね。10年間変わらなかった課題が、10年後も課題として残り続けるということを心配しています。例えば、公差設計・解析は、私がエンジニアだった頃からよく言われていましたが、浸透しきってはいないように思います。
同じようにツールも、一部が先進的なモノに変わっても、残りは変わっていない状況が生まれていて、テクノロジーデバイドが生まれています。古い技術は常に一部では必要となる領域が残り続け、常に一定レベルは需要があります。しかし、最新の技術に対応していかなければエンジニアとしての価値は高まりません。結果として「食えても苦しい」というような状況が生まれます。現場が踏ん張って過重労働で解決するようなアプローチもあるけれど、人手不足の現状を見ると限界が近づきつつある気がします。その中でどうしていくのかというのは今後の課題だと考えます。
サイトー 自動車業界では、中国やインド、フランス、英国などで、国を挙げて電動車シフトが進んでいることに対し、どう向き合うのかというのが課題だと考えています。日系自動車メーカーは内燃機関による自動車開発を継続する考えが大半だと思いますが、中国や欧州がここまで電動化を加速させる中、状況がどう変わるのかというのは見ていかなければならなくなってきました。こうした動きを織り込んだ上で、既存の戦略でいくのか、もしくは戦略変更があるのならば、どういうリスクを抱えるのかなど、今後の動向が気になります※)。
※)関連記事:日系自動車メーカーの戦力逐次投入は何をもたらすのか
サンスー 全く別の切り口になるかもしれませんが、日本の製造業の「年齢」に課題があるように感じています。個人的に「日本とチェコがインダストリー4.0推進で協調へ、チェコ首相『連携深めたい』」で取り上げたチェコの首相 ボフスラフ・ソボトカ氏が同い年だったことが衝撃でした。
私と彼は、ちょうど団塊ジュニアと呼ばれる世代になりますが、ソボトカ氏は国家元首です。また他の海外企業を見ても、同世代の人々が多く重要な役職に就いています。一方で、日本の大手製造業を見た場合、同世代で企業を引っ張る役職には就けていないような気がしています。元気がないのか、上の世代に抑えられているのかは分かりませんが、このままいけば日本のモノづくりはより若い世代との乖離が大きくなっていくような気がして、危機感があります。
コバユミ ミシマさんはやっぱり、IoTやインダストリー4.0への対応ですか?
ミシマ そうですね。半ばライフワーク的になっているかも(笑)。IoTだったり、インダストリー4.0だったり、第4次産業革命だったりというところをどう実現に導いていくのか、というのが課題だと考えています。ここ数年ずっと話していますが、第4次産業革命の動きは製造業にとってピンチでもあるし、チャンスでもあると思っています。IoTにより日本が得意な現場力やすり合わせ力が、データ化されて吸い上げられてしまうというリスクはあります。一方で逆に、現場のノウハウを定型化して新たな付加価値としてパッケージ化して提供できるような可能性も生まれます。
この動きは当たり前ですけど製造業だけに影響するものではありません。私は逆に日本のITベンダーにとって新たな大きなチャンスが来たんじゃないかなと考えています。日系企業の動向を見ると、製造業はグローバルで高い存在感を示し、海外の売上高比率が高いですが、ITベンダーは国内中心の状況で、世界で活躍しているとはいいがたい状況です。主要なパッケージベンダーやクラウドベンダーなどもほとんどが海外企業です。グローバルで見た場合、IT業界における世界での日本の地位は、製造業における世界での日本の位置付けに比べてはるかに低いといえます。
ただ、現在の動きは、現場力とITを組み合わせていく動きが求められており、こうした中で日本の現場の強みをいち早くシステム化やパッケージ化できれば、新たな価値として世界に提供できるようになるわけです。製造業は弱みをカバーし、日系ITベンダーは世界への足掛かりを作る、というそれぞれにとってのチャンスが生まれていると見ています。
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