ダイハツ「ミライース」、37.0km/lを超えられる新型エンジンをなぜ諦めた?:ミライース 開発者インタビュー(2/4 ページ)
先頃フルモデルチェンジされたダイハツ工業の軽自動車「ミライース」。開発陣に量産までのいきさつを聞くことができた。驚異の軽量化と安全装備の充実を両立しながら、価格を抑える工夫はどのようにして生まれたのか。そこにはミライースを利用するユーザーへの思いにあふれていた。
車両価格は絶対に上げられない
ここからは車両開発本部でエグゼクティブチーフエンジニアを務め、ミライースのチーフエンジニアを兼務した南出洋志氏に話を聞く。「価格とカタログ燃費を据え置いて、実燃費と安全装備を充実させる」というコンセプトにたどり着いたいきさつを尋ねてみた。
南出氏 開発を始める前に社内で「商品要件探索チーム」を組んで、全国の先代モデルのユーザーから声を聞きました。どこが気になるか、どういう要望があるか聞いて回ったんですよ。
高根氏 いわゆるマーケティングの専門部署だけではなく、開発の人間も調査に加わったと聞いている。それはなぜか。
南出氏 従来は製品企画部の人間が聞いて回るんですけど、それでは開発のところに意見が届く時にニュアンスが変わってしまう恐れがあります。製品企画がいっているだけなのでは? ユーザーの声を借りて自分たちのやりたいことをいっているだけなのでは? と開発スタッフが思い込んでしまうこともあり得ます。
ところが、自分たちで直接ユーザーの声を聞いて、乗り降りする時にこうなっていないと不便です、といわれれば、開発者の耳には強く残るんです。そこで普段は調査になど行かないデザイナーや設計、それに販売や製品企画など3〜4人でチームを組んで、何チームか同時に全国へと出向いたんです。
高根氏 全国を回ったことで、いわゆるニーズの地域性などは感じたのだろうか。
南出氏 都市部にいると気が付かないことに気付かされました。例えば、地方の過疎地では路線バスが減っているんですね。電車も廃線になってしまっています。そうなると日常生活のために、絶対にクルマが必要なんです。
私が直接聞いたケースでも、兵庫県の日本海側で60代の方は後席に80代のお母様を乗せて週に2〜3回、病院に通われているそうです。「だから絶対にクルマが必要なんです」といわれました。でも、「いいにくいけど収入もそんなにないので、高いクルマは購入できない」。ミライースのように100万円で買える燃費のいいクルマがあるのはありがたい、ともいっていただきました。
新潟でもそれに近い意見をユーザーさんからいただきました。そういう生の意見はすごくありがたいです。こういう声を聞いてしまったら、販売価格は絶対に上げたらいかん、という気持ちになりました。
開発スタッフの一人一人がコストアップの話をもってくるとして1台当たりでそれぞれ何十円のレベルですが、これを受け入れてしまうと車両価格としては1万〜2万円の値上げになる。それは止めようということになりました。
高根氏 とにかく軽量化、しかも価格は据え置き。その一方で装備を充実させよ、というのは無理難題にしか思えない。
南出氏 G(最上級グレード)とX(上から2番目のグレード)は価格を変えていないんです。価格は据え置きで、L(中間グレード)はむしろ安くなった。だから特にXとGはお買い得だといえますね。LEDヘッドランプをタダで付けたようなものですから。B(ベースグレード)は先代モデルではあまりに装備が質素過ぎてしかられまくったので、当たり前の装備は付けよう、ということになりました。とにかく制約の多い開発でした。軽量化とコストを両立するのがとにかく大変で……。
高根氏 それでも内装の仕上がりは先代より随分高級感が増している。特にダッシュボードのデザインと質感は100万円のクルマとは思えないほど上質感がある。
南出氏 あのダッシュボードは一体成形で作っているので、部品点数を減らしてコストダウンも達成しているんですよ。
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