ステアリング技術は自動運転車の筋肉と小脳を担う:自動運転技術(2/2 ページ)
自動運転車はドライバーの認知、判断、操作を代わりに行わなければならない。知覚はセンサー、判断はコンピュータが担う。その意思決定の通りにクルマを曲がらせるための筋肉と小脳はどう代替するか。
高度化する自動運転で、EPSは力不足になる
レベル3以降の自動運転において、従来のEPSの延長では機能が不足すると見込み、ジェイテクトはステアバイワイヤの開発も進める。ドライバーと自動運転システムの判断が分かれた時に、車両側の制御を優先することもできるようにするためだ。
また、クラッチでステアリングホイールとラックを切り離すことにより、自動運転中にステアリングホイールが動き続けたり、緊急回避の急な操作によって自動で急回転したりしないようにすることも可能だ。
2020年に量産を目指すのは、コラムタイプとラックアシストタイプのEPSを組み合わせ、コラムとラックの間をクラッチでつないだステアバイワイヤシステムだ。電気信号の有無によってクラッチを制御し、異常時はクラッチがつながって操舵できる。その次の世代として2025年の実用化を目指し、物理的な連結のないリンクレスのシステムに向けて進化させていく。
ステアバイワイヤシステムによって、車速に応じてタイヤ角を制御することが可能になり、低速域では取り回しを向上したり、高速域では走行安定性を高めたりするといったメリットが生まれる。また、リンクレスのステアバイワイヤシステムでは、右ハンドル・左ハンドルの共通化や、居住空間の拡大も図れる。
クラッチありのステアバイワイヤシステムを搭載した実験車両を運転してみたところ、EPS搭載の他の車両と操舵感覚に差異はなく自然に感じられたが、「テストドライバーとしては、まだ100点満点の自然な制御ではない」(ジェイテクトの説明員)という。メカ機構のステアリングとそん色ない制御を追求することも今後の課題の1つとなる。
自動運転のどのレベルでも求められるのが機能安全だ。現在、通信など一部の機能をソフトウェアでバックアップする冗長設計のEPSを量産中で、電源やマイコンも含めたハードウェアの冗長化にも取り組む。
全てのハードウェアが故障してもアシストを継続できる設計のEPSは2019年の量産を目指す。故障時のシステム出力は50〜100%とする。据え切りなどで多少ステアリングを重く感じる程度で、運転には支障のない出力だ。
自動運転の操舵は、手離し運転も想定した安全に関する国際基準づくりや、自動車線変更など具体的な機能や走行条件を規定した試験手法の検討など議論が現在進行形で進んでいる。自動運転が標準装備化し、コスト競争が激しくなる段階も視野に入れ、ジェイテクトは商品力を強化していく。
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