検索
インタビュー

MBSEは自動車業界と航空宇宙業界の切磋琢磨で進化する製造マネジメント インタビュー

複雑化する製品の設計開発をより効率的に行える手法として注目されているモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)だが、その導入で先行してきたのが航空宇宙業界だ。現在MBSEの導入を始めつつある自動車業界は後発になる。しかし今後は、自動車業界と航空宇宙業界、双方の知見の融合のよってMBSEが進化していくことになりそうだ。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 インダストリー4.0やIoT(モノのインターネット)の登場によって、製品の設計開発は複雑になる一方だ。例えば自動車であれば、電子化の進展によって車両自体の構造が複雑化するだけでなく、車両外部と通信接続して提供されるサービスなどによっても複雑性が増している。数十年前にカーラジオを搭載する程度だったかつての自動車は、自動運転や通信接続といった機能を備えて、従来では考えられなかった製品へと進化しようとしているのだ。

アラスのピーター・シュローラ氏
アラスのピーター・シュローラ氏

 PLMベンダーのアラス(Aras)は、複雑化する製品の設計開発をより効率的に行える手法として注目されているモデルベースシステムズエンジニアリング(MBSE)とPLMの融合による課題解決を目指している企業だ。アラスCEOのピーター・シュローラ(Peter Schroer)氏は「MBSEソリューションのトップ企業であるNo Magicと連携することで、MBSEとPLMのコラボレーションに取り組んでいるところだ」と語る。

 アラスが、MBSEとPLMの連携で最初にアプローチしたのが自動車業界だ。2016年の1年間で、日本、米国、ドイツの各地域で大手自動車メーカーやメガサプライヤー、ITアーキテクトや研究者などを交えたオープンディスカッションを行うラウンドテーブルを総計4回実施し、協議を重ねたという。「自動運転技術やコネクテッドカーのように、インターネット関連のソフトウェアと従来技術を組み合わせるような複雑性の高いシステムの開発は容易ではない。そういった設計開発を管理するにはMBSEとPLMの組み合わせが望ましいという意見が多かった」(シュローラ氏)という。

 ラウンドテーブルの成果として、アラスのPLMツール「Aras Innovator」とNo Magicをつなぐ“コネクター”が開発された。このコネクターは現在無償公開されている。

MBSEのツールによる運用管理では自動車業界が先行

 2016年は自動車業界向けに行ってきたラウンドテーブルだが、2017年は航空宇宙業界を対象に実施することとなった。2017年7月に実施した日本のラウンドテーブルには、三菱重工業、IHI、川崎重工業、三菱航空機(MRJ)が参加した。

 ここで興味深いのは、対象を自動車業界から航空宇宙業界に移行したことだ。一般的に、MBSEの導入で先行しているのは航空宇宙業界といわれている。これは、航空機や宇宙機が、自動車に比べて部品点数が多く、より複雑なシステムを開発しなければならないからだ。まだMBSEを導入していない自動車業界を対象にするのは分かりやすいが、既にMBSEを導入している航空宇宙業界を対象にする意味合いは少ないようにも感じられる。

 シュローラ氏は「実は、自動車業界と航空宇宙業界で、MBSEの導入の目的が異なっている。今回、航空宇宙業界を対象にしたのは、自動車業界で得られた知見を共有するためだ」と狙いを説明する。

 自動車業界におけるMBSE導入の目的は、複雑化していく自動車の製品開発サイクルを早く回せるようにすることだった。一方、航空宇宙業界では、新製品の早期開発よりも、長期間使用する製品をカスタマイズしやすくすることがMBSE導入の目的となっている。例えば航空機であれば、航空会社ごとに使用するエンジンやタイヤ、サブシステムなどが異なるので、これらを組み合わせた状態でしっかり性能を出せるような製品開発が求められる。目的が異なる以上、それぞれの業界から得られる知見も異なってくる。

 また、MBSE導入で先行している航空宇宙業界だが、その運用は紙資料や表計算ソフトで行っているのが実情だ。航空宇宙業界は、製品開発サイクルが長いこともあってそれで問題なかったが、製品開発サイクルがより短い自動車業界は、紙や表計算ソフトによる運用管理ではMBSE導入の目的を達成できない。そこで求められたのがツールによる自動化である。つまり、MBSEのツールによる運用管理という観点では自動車業界が先行しているのだ。

 シュローラ氏は「自動車業界のMBSEに関する知見を、航空宇宙や医療機器など他業界にも広げていきたい。もちろん、今回のラウンドテーブルで得られた航空宇宙業界のMBSEの知見も自動車業界などに反映していく。各業界の知見を融合することで、よりよいMBSEになっていくはずだ」と強調する。なお、自動車業界とのラウンドテーブルではコネクターを開発したが、航空宇宙業界では“データモデル”が開発議題になるとみられる。

2017年の目標は60%成長「4〜5年でトップシェアも狙える」

 このようにMBSEに注力するアラスだが、主力製品であるPLMツールの採用も着実に伸ばしている。これまでアラスの顧客は中堅企業が多かったが、最近になってGM(General Motors)やエアバス(Airbus)などの大手企業が増えつつある。シュローラ氏は「シーメンスPLMの元CEOであるトニー・アフーソ(Tony Affuso)氏が、2017年3月に当社の取締役に就任したことが話題になった。自動車や航空機関連の大手企業への充実したサポートに向けて、アフーソ氏の知見を生かせるだろう」と語る。

 アラスは2017年の売上高で前年比60%の成長を計画しており、年半ばの現時点で計画は十分達成可能な状況だという。「2017年のPLM市場の成長率が5%と予測される中で、60%もの成長ができることは素晴らしいこと。この勢いで行けば、4〜5年後にはPLMでトップシェアも狙えるだろう」(シュローラ氏)としている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る