「世界で最も現実的なインダストリー4.0」を目指すオムロンの勝算(前編):スマートファクトリー(2/2 ページ)
オムロンはFA事業戦略を発表し、同社が考えるモノづくり革新のコンセプト「i-Automation」について紹介するとともに、これらのコンセプトを実践している同社草津工場の取り組みを紹介した。本稿では、前編で同社の考えるモノづくり革新の全体像を、後編で製造現場における実践の様子をお伝えする。
オムロンが製造現場の進化で自信を見せる理由
オムロンではここ数年、IoT(モノのインターネット)やインダストリー4.0に対する取り組みを強化。「i-BELT」なども含め大規模な投資や体制の整備などを進めている。オムロンのIoT、インダストリー4.0領域での勝算はどこにあるのだろうか。宮永氏は「これらの領域ではオムロンならではのユニークネスが確保できると考えた」と強みについて語る。
20万点に及ぶ制御機器群
強みの1つ目は、オムロンが制御機器の領域で20万種にも及ぶ機器を展開しているという点である。制御機器は「Input(入力)」「Logic(制御)」「Output(出力)」「Safety(安全)」などに機能別で分けられるが、オムロンではこれらの幅広い機器群を以前から展開してきた。さらに、ここ数年は買収などを進め、さらに製品の幅を拡大。2015年にはモーション制御機器を展開するデルタ タウ データ システムズ(Delta Tau Data Systems)と、ロボットを展開するアデプト テクノロジー(Adept Technology)を買収した他、2017年には産業用カメラを展開するセンテックを買収。製品ポートフォリオの充実を図ってきた※)。
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宮永氏は「もともとの豊富な制御機器群に加えて、M&Aを通じてポートフォリオ拡張が進んできたことで、製造現場のほぼ全ての領域で製品群をそろえられるようになった。これだけ豊富な機器群を抱えるのは世界を見てもオムロン以外にないと考えている」と強みを語る。
高度10m以下の強み
強みの2つ目は、オムロンの取り組み領域である。オムロンでは先述した20万点の製品群の大半を製造現場の領域で展開している。同社では、製造現場の情報を高度で表現しているが、「高度10m以下」の領域に特化しているという点が強みだ。
具体的には、ERP(Enterprise Resources Planning)システムなどで管理する企業レベルの経営情報などを高度1000mと位置付け、工場レベルのMES(Manufacturing Execution System)などを高度100m、PLCや産業用PCレベルを高度10m、そして製造現場のセンサーやI/Oなどの高度1mだとしている。オムロンは産業用PCおよびPLC以下の領域に特化している※)。
※)関連記事:オムロンの“標高10mのIoT”は製造現場を明るく照らすか(前編)
オムロンでは従来もこの「高度10m以下」の領域に特化してきたが、IoTなどが広がりを見せる中でもこの領域をさらに充実させ、それより高い領域については、パートナーと組みながら進めていく方針を明確化している。それにより強みとする領域とオープンにする領域を切り分けて、最適な形で顧客企業に価値を提供できるとしている。
ソリューションとしての展開
さらに、強みの3つ目が、これらの豊富な機器群だけでなく、ノウハウやソフトウェアなどを組み合わせたソリューションとして提供できる点である。オムロンでは、先述した「Input(入力)」「Logic(制御)」「Output(出力)」「Safety(安全)」に「Robot(ロボット)」を加えた、「ILOR+S」を制御の機器群として展開していることは説明したが、これらを有効に機能させるソフトウェアなども開発し合わせて提供している。
これらを実現するために設置しているのが「オートメーションセンター(ATC)」である。ATCはオムロンの制御機器を用途別のソリューションとして実証実験を推進。汎用性の高い動作などについて関連のノウハウなどをソフトウェアに組み込んで開発し、機器と合わせてソフトウェアを提供することで、製造現場での高度なライン構築に貢献する役割を担う。ATCは従来は全世界に2カ所だったが、ここ数年急速に拡大し現在は8カ所に設置。200以上のファンクションブロック※)の構築が進んでいるという。
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宮永氏は「製造現場の課題解決は既に個々の機器だけで解決できるものではなくなっており、これらを解決するためにはさまざまな機器などを組み合わせていく必要がある。オムロンが貢献できる領域は非常に大きい」と力を込める。
「機械にできることは機械にまかせる」
オムロンにとって制御機器事業は祖業である。創業者の立石一真氏の言葉として「機械にできることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」というものがあるが、実際に60年以上にわたりモノづくり現場のオートメーション化に貢献してきた。
ただ、現在の状況は技術面でも環境面でもさらなる自動化や自律化が求められる状況になってきている。「人手不足が叫ばれる昨今の状況を見ると、オートメーションの社会的価値は従来以上に高まっており、オムロンとしてのチャンスも広がっている」と宮永氏は述べる。さらに「ドイツのハノーバーメッセでの2017年の展示について、ドイツのテレビ局から『最も現実的なインダストリー4.0だ』と言われた。目指す方向性は間違っていないことが確信できた」と宮永氏は今後の展開について自信を見せている。
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