169MHz帯でドローンの遠隔制御に初成功、飛行中の920MHz帯への切り替えも可能:ドローン
情報通信研究機構と産業技術総合研究所は、総務省が新たに制度化したロボット、ドローン用の周波数の1つである169MHz帯を使ったドローンの遠隔制御飛行に初めて成功したと発表した。
情報通信研究機構(NICT)と産業技術総合研究所(AIST)は2017年7月31日、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「タフ・ロボティクス・チャレンジ」の一環として、総務省が新たに制度化したロボット、ドローン用の周波数の1つである169MHz帯を使ったドローンの遠隔制御飛行に初めて成功したと発表した。政府が2020年頃までの実現を目指している目視外での安全なドローン運航に寄与する技術だという。
今回の飛行実験の通信周波数帯は、ドローンの操縦に広く用いられている2.4GHz帯と比べて、建物などの障害物を回り込んで比較的遠くに届きやすい特性を持つ169MHz帯を使用した。地上の操縦者からドローンまで直接無線をつないだ制御の他、上空に滞空する他のドローンを経由して、目的のドローンの制御と状態把握を行うマルチホップ中継制御にも成功した。また、ドローンの飛行中にドローンの制御用に開発してきた920MHz帯の周波数との切替えを遠隔から行えることも確認した。
今回の成果により、異なる電波の伝わり方を持つ複数周波数にまたがる運用が可能となり、ドローンの飛行に必要な電波をこれまでよりも格段に高信頼化できる見通しが得られたという。
2.4GHz帯では1km以上の遠隔制御は難しい
これまでのほとんどのドローンは、その制御や状態把握を行うための通信周波数帯として免許が不要な2.4GHz帯を用いている。しかし、同じ周波数帯を使う無線LANなど他からの干渉を受けやすく、構造物や樹木、地形などによって電波が途切れやすいという課題があった。ドローンの新たな用途として想定されている物流や災害対応などの場合、操縦者から1km以上離れた場所でドローンを安定に運用する必要があるが、2.4GHz帯では困難とみられている。
総務省はこの課題に対応するとともに、きたるべきロボット社会到来への期待やドローンの長距離を隔てた運用や画像伝送のニーズに応えるため、2016年8月に新たに「無人移動体画像伝送システム」を制度化した。新制度は無線局免許が必要になるものの、上空で10mW、地上で1Wまでの出力で運用できるため、条件が良ければ10km以上の距離で遠隔制御できる可能性がある。
今回の実験に用いた169MHz帯は、新制度で利用が可能になった周波数帯である。ただし、周波数の幅が合計で約400kHz程度と比較的狭いこともあり、バックアップ用としての使い方が想定されている。これまで、この周波数帯を使ってロボットを制御したり、ドローンを飛行させて評価した例はなく、その通信品質に関するデータもなかった。
今回の実験では、これまでに920MHz帯で開発してきた技術である“応答遅延時間を一定に保ちながら、制御情報(コマンド)や機体の状態情報(テレメトリー)を途中の他の中継用ドローンなど等を経由してマルチホップ中継する機能”を変えずに、周波数とその送信出力のみ、169MHz帯の規格に切り替えられるように設計した。
実験では、初めに920MHz帯で操縦者端末とドローン側の間で通信を確立し、そのまま離陸上昇させ、上空高度30mほどになったところで周波数を169MHz帯に切り替え、ドローンの飛行状態への影響を調べた。その結果、操縦者が制御コマンドを送信してからドローンに届くまでの遅延時間は、920MHz帯では60msほどであったところ、169MHz帯では2秒ほどかかった。また、テレメトリーの伝送速度が、920MHz帯に比べて約半分になるという課題も見つかった。しかし、ドローンの飛行に支障はなく、安定に飛行が可能であり、地上側でも多少データの更新頻度が落ちるものの、ほぼリアルタイムでテレメトリーが得られることが確認できたという。
周波数の切り替えについては、920MHz帯から169MHz帯に切り替わるまでの時間は約20秒かかったが、飛行自体は安全に維持されたままであることを確認した。今後は、さらなる高速化を検討するという。一方、169MHz帯から920MHz帯に戻すときは、瞬時に切り替わることを確認している。これは、一度169MHz帯に切り替えた後も、920MHz帯の信号を完全には切断していないことによるものだった。今回の開発により、異なる電波の伝わり方をする複数の周波数にまたがるハイブリッド型の運用が可能となり、ドローンの飛行に必要な無線通信の電波をこれまでよりも格段に途切れにくくする見通しが得られたとしている。
さらに169MHz帯の実験では、直接電波が届かない見通し外でのドローン運用を想定し、途中に中継局を搭載した別のドローンをもう1機飛行させ、いったんこれを経由して目的のドローンを制御するマルチホップ中継制御による飛行も行った。そこで、遅延時間とデータ伝送速度は直接通信の場合とほとんど変わらず、安定に飛行できることが確認できたという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- オールジャパンでドローン運航、楽天やJAXAなど参加のプロジェクト始動
NEDOは、新たにドローンの安全な飛行とドローンを利用したサービス産業創出に向けて、無人運航管理システムの開発に着手した。開発期間は3年で、NEC、NTTデータ、日立製作所、NTTドコモ、楽天が参加する。全体の制度設計などはJAXAが行う。 - 空に安全な道を作れ、東電とゼンリンが目指す「ドローンハイウェイ構想」とは
東京電力ホールディングスとゼンリンは新たに、ドローンが安全に飛行できる“空の道”を作る「ドローンハイウェイ構想」を提唱し、実現に向けた業務提携を行うことを発表した。東電の電力インフラ網をドローンの飛行路とする構想だ。 - 組み込みエンジニアが手掛ける「安全」なドローン
ドローンの産業向け展開が始まっている。しかし、「産業用」としての利活用を進める上での技術要件はまだ確立されていない。その中で“安全を担保する”ドローンの開発を進めるのが、ドローンワークスの今村博宣氏氏だ。 - ドローンが機械学習で自律飛行、“らせん学習”で進化
Preferred Networksは「CEATEC JAPAN 2016」において、ドローンの自律飛行デモを公開した。同デモではドローンの自律飛行用プログラムだけでなく、シミュレーションプログラムも機械学習により進化させる「スパイラル学習法」を採用したことが特徴だ。 - キヤノンがドローン市場に参入、映像解析ソリューション提供へ
キヤノングループのキヤノンマーケティングジャパンが、ドローン開発製造のプロドローンに1億円を出資、産業用ドローン市場に参入する。 - ドローンの“弱点”と解決へのアプローチ
小型無人機(ドローン)の専門展示会、「国際ドローン展」が開催された。業務向けへの提案が多く盛況であったが、展示の中にはドローンが抱える課題の解決を目指すものも見受けられた。