職人をクリエイターに! 社員と一緒に自社ブランドの立ち上げに挑戦する:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(14)(3/3 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、100年前から“火の道具”を作り続けてきた大阪市の田中文金属が、社員と一緒に育てている自社ブランドを紹介する。
「遊び心」をデザインで満たす
田中氏は求人にハローワークを使う以外にも、公的サービスを積極的に活用している。大阪内全域の中小モノづくり企業のためのモノづくりの総合支援拠点「MOBIO(モビオ)」。中小・ベンチャー企業支援拠点の「大阪産業創造館」。国が全国に設置する経営相談所である「よろず支援拠点」などだ。
「中小企業の弱点は情報収集力」と考え、自分から積極的に相談に行き、情報を集めサポートを受けているそうだ。もちろんパイロマスターの開発にもこうした支援機関を役立てた。
同社がこれまで開発してきた製品は、生活や仕事の必需品だ。それに対して、パイロマスターのコンセプトは“大人の火遊び”。つまり、余暇を楽しむツールだ。
板金屋の視点で製品を作れば、どうしても作りやすさが優先してしまう。機能や性能、剛性だけでは、趣味の領域ではユーザーに訴求できない。遊び心をどのように表現したらいいのか。
そう悩んでいたときに、グラフィックからプロダクトまで全てをこなすデザイナーと出会った。グッドデザインアワードを2回受賞している和田浩次郎氏だ。
田中氏からの依頼を受けた和田氏は、パイロマスターのディテールだけではなく、ブランドコンセプトからデザインをしたという。
田中文金属が展開するアウトドア用品のブランド「Conifer Cone(コニファーコーン:松ぼっくり)」の名には、創業時の精神を受け継ぎ、新しいモノを生み出し、いつか大きな松の木になるという思いが込められている。ロゴは、幾つもあるデザイン案の中から、全社員参加のアイデア会議で決定したそうだ。
パイロマスターのヒットを受けて、コニファーコーンのシリーズ商品を展開している。
人気のフォールティングトング「アングルマスター」は、社員から出てきたアイデアだ。火を使うときにはトングが必要だが、アウトドアに持っていくにはかさばる。折りたためたら便利だ。
カシメの硬さ、ギザギザの数や角度に拘り試作を繰り返した。トングの角度が変えられるため、火の真上に手がこないので、熱くない。テーブルに置くときに、先端を上向きにすれば汚れない。
新製品の開発は、試作日を決めて行う。大手企業であれば、試作室では企画から上がってきたものを図面通りに作るが、ここでは違う。試作をしているさなかに、職人がアイデアを思い付いて、全く違うことをはじめたりもする。
自分のアイデアが形になり、商品として世の中に出ていく面白さに若い職人がハマる。「理想は、職人がクリエイターになること」と田中氏は試作をする職人を温かい目で見守っていた。
筆者プロフィール
松永 弥生(まつなが やよい) ライター/電子書籍出版コンサルタント
雑誌の編集、印刷会社でDTP、プログラマーなどの職を経て、ライターに転身。三月兎のペンネームで、関西を中心にロボット関係の記事を執筆してきた。2013年より電子書籍出版に携わり、文章講座 を開催するなど活躍の場を広げている。運営サイト:マイメディア
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