トランプ政権とIoTがデトロイト3の弱体化を生む、産業構造の転換が急務に:IHS Industrial IoT Insight(6)(2/2 ページ)
今後の製造業の発展に向けて必要不可欠とみられているIoT(モノのインターネット)。本連載では、IoTの現在地を確認するとともに、産業別のIoT活用の方向性を提示していく。IoTを取り巻く最大の産業分野とみられる自動車だが、米国市場では大きな産業構造の変革がもたらされつつある。
ハイテク産業が自動車市場にもたらす4つの産業構造の変化
自動車市場に対して、ハイテク産業が目指すビジネスモデルは4つの大きな産業構造の変化をもたらす。まず市場は自動車免許を持たない高齢者や子供に拡大する。自動車が「所有」から「利用」の対象となるからだ。
次に、完全自動運転が実現すれば、自動車は「運転」するものから、「移動」する手段として扱われる。さらにその移動する手段はコストを下げるために参入障壁の低い電気自動車が使われ、利益の源泉は「製造」ではなく「サービス」へ移行する。そして、サプライヤーの競争力は、「ハードウェア」から「ソフトウェア」へ移行するため、必ずしも自動車製造メーカーが中心とはならなくなるだろう。
このような変化は既に着実に足元に迫っている。例えばコネクテッドカーの分野では、GMは2017年から「OnStar Go」のサービスを提供開始するが、スマートフォンアプリやクラウドコンテンツではアップル(Apple)の「CarPlay」が優位な状況だ。IHS Automotiveの調べでは、2016年9月時点でCarPlayは既に15の自動車製造メーカーの33ブランド/177車種に採用されている。
完全自動運転ではグーグル(Google)が一歩先を行く。2017年に入りFCAやホンダと業務提携を結んだ。グーグルは、完全自動運転のコア技術である3Dマップや自律運転ソフトウェアを開発し、従来の自動車製造メーカーに供給するビジネスモデルを描いている。またモビリティサービスの分野でも、ウーバー(Uber)がAI(人工知能)、自律走行ソフトウェア、地図開発に積極的な投資を続けており、2021年までに完全自動運転技術を利用したライドシェアサービス開始を目指している。このように米国の自動車製造産業とハイテク産業は、IoT技術を応用した産業構造の転換のさなかにあり、今後10年間目が離せない状況が続くだろう。
トランプ政権の政治的圧力を受け、フォードはメキシコ新工場の建設から撤退したが、メキシコの自動車生産能力は、2020年には現在よりも150万台増強され、550万台に達する見込み。現代自動車(Hyundai Motor)やフォルクスワーゲン(Volkswagen)を中心に、既存工場の生産能力増強が90万台。トヨタ自動車、COMPAS(ダイムラー(Daimler)とルノー・日産アライアンスの合弁会社)、BMWの3社は合わせて60万台規模の新工場を計画中だ。
国境税や国境調整税導入は当面見送られたが、2017年5月18日に米国のトランプ政権はNAFTA再交渉の手続きを開始しており、今後90日以内に何らかの方向性が見えてくるかもしれない。米国の雇用と労働者の利益を守るために、保護主義的な政策を持ち出す可能性はある。その1つがピックアップトラックやバンに課せられている25%関税の復活だ。現在メキシコではGM、FCA、トヨタ自動車、日産自動車の4社がピックアップトラックやバンを年間100万台生産している。これら4社の米国工場稼働率から判断すると、GMとFCAは米国工場の稼働率が80%以下なので、追加投資なしでメキシコからピックアップトラックの生産を移管できる可能性が高い。一方、トヨタ自動車と日産自動車の米国工場稼働率は90%を超えており、メキシコからの生産移管には追加投資が必要になるかもしれない。
プロフィール
西本 真敏(にしもと まさとし)
日本鉄鋼メーカーの自動車部門で10年間購買、営業、企画部門に携わる。2008年、CSM Worldwideへ入社。現在はIHS Markitオートモーティブの日本/韓国生産担当マネージャーを務める。東京オフィス在籍。日本と韓国の自動車生産や自動車メーカーの生産戦略などの予測・分析を行う。
https://www.ihsjapan.co.jp/
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