3Dプリンタはインダストリー4.0の重要なピース?:いまさら聞けない第4次産業革命(14)(3/3 ページ)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについてお伝えしています。第14回となる今回は、インダストリー4.0の動きと合わせて再注目されている3Dプリンタの動向とその理由について紹介します。
製造工程だけでなくビジネスを変えるという期待
さらに印出さんは3Dプリンタへの別の期待についても述べています。新たなビジネスモデル構築の重要なピースとしても重要視されたため、再注目が進んだと指摘しているのです。
製造技術としてマスカスタマイゼーションを実現するというだけで3Dプリンタが注目されたのではないのよ。新たなビジネスモデルが既に始まっているの。
ど、ど、どういうことですか?
デジタル環境で設計したものを3Dプリンタでそのまま形にできれば、メーカーとしての設計機能、製造機能などの位置付けが大きく変わってくるわ。そこに新たなビジネスモデルが存在するとされているの。
先述したSAPでは、単純に製造工程の改善を目指して3Dプリンタを出展したわけではなく、既に始まっている新たなビジネスモデルを訴えるために出展しています。
その例が、米国の物流会社UPSの新たなビジネスです。UPSは物流拠点に3Dプリンタを設置し、部品などが急に少量必要になった場合、受注して設計データを受け取り、すぐに3Dプリンタで造形し、発送するというビジネスモデルを展開しているのです。物流企業としての配送網に3Dプリンタを組み合わせて創出した新たなビジネスモデルというわけです。
一方、ドイツのシーメンス(Siemens)では、3Dプリンタなどの積層造形技術を活用した部品製造のオンラインコラボレーションプラットフォーム構想「Siemens Part Manufacturing Platform」を発表しています。
これは、製造リソースの最大活用や、積層造形の専門知識の入手、ビジネスチャンスの拡大などを目的に製造コミュニティーをつなげるクラウド製造基盤を構築するものです。例えば、部品のバイヤーとマイクロファクトリーがつながることで、世界中の都合の良い場所で部品を積層造形技術を使ってオンデマンド生産する姿を実現できるとしています。
3Dプリンタが生み出す新たな製造業の形
3Dプリンタはこれらのビジネスモデルごと変える「新たな製造の形」に対する1つのキーとなるピースであるために注目されているということがいえるのよ。
そんな背景があったんですね。でも、日本ではそこまで「新たな製造業の形」についての議論はされていませんよね。
日本の「ものづくり白書」などでも指摘されていることだけど、日本の製造業は製造工程内の話には積極的だけど、ビジネスモデルの変革には消極的ね。だけど、海外にはこうした遠くまでを見据えた視野で開発を進めている動きもある。海外の動きが必ずしも正しいとは限らないけれど、どういう狙いでどういう方向性の動きが進みそうかというのは見ておくべきね。
さて今回は、「ハノーバーメッセ2017」で見えた3Dプリンタ復権の動きについてまとめてみました。次回は、第4次産業革命に対する動きの1つの取っ掛かりになる「簡単でシンプルなIoT」について紹介したいと思います。
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