Windows版Chainerのビルド済みバイナリを配布へ、「国内でのインパクト大きい」:人工知能ニュース
Preferred Networks(PFN)と日本マイクロソフトがディープラーニングのコミュニティー「Deep Learning Lab」のキックオフイベントを開催。「Windows」や「Azure」といったマイクロソフト製品で、PFNのディープラーニングソリューションを使いやすくしていく方向性を示した。
Preferred Networks(PFN)と日本マイクロソフトは2017年6月19日、東京都内において、ディープラーニングのコミュニティー「Deep Learning Lab」のキックオフイベントを開催した。
PFNとマイクロソフトの米国本社は同年5月23日、人工知能や深層学習の実社会での活用を推進するため、ディープラーニングソリューション分野において戦略的協業することで合意した(関連記事:深層学習ソリューションの提供に向けマイクロソフトとPFNが協業)。今回キックオフしたDeep Learning Labは、この戦略的協業を幅広く進めていくためのコミュニティーとなる。
PFNは、日本発のディープラーニングフレームワーク「Chainer」で知られる。また、ストリームデータ向けETL(受理、変換、送出)ツールである「SensorBee」も展開している。ChainerとSensorBeeがオープンソースであるのに対し、PFNの研究成果をツールやアルゴリズムとしてパッケージ化しているのが「DIMo(ダイモ)」だ。
PFN 取締役 最高執行責任者(COO)の長谷川順一氏は「当社にはディープラーニングに関するさまざまな依頼があり、それらの案件についてPoC(概念実証)を走らせる際に用いているのがDIMoだ。DIMoを使ったPoCはかなりの数に上っており、さらに新たな依頼もあって当社だけでは対応できない状況にある。今回のマイクロソフトとの協業では、このDIMoをクラウド『Azure』上で簡単に利用できる『DIMo on Azure』を開発する。そして、DIMo on Azureを扱えるパートナーを増やしていきたい」と語る。
DIMoは、映像解析、外観検査、異常検知(故障予測)、再照合機能といったようにアルゴリズムのパッケージを順次充実させている。これらはもちろんオンプレミスで学習、実行環境を作ることもできるが、DIMo on Azureでは環境構築済みのものを提供する計画だ。環境構築の手間が掛からないので、従来よりもディープラーニングを試す際のハードルがはるかに下がることになる。
「Azure」の仮想マシンに「Chainer v2.0」をプリインストールへ
両社の戦略的協業では、DIMo on Azureのように、マイクロソフトの製品上でPFNのディープラーニングソリューションをより使いやすくするための開発も含まれている。
まずChainerについては、「Windows」で利用する場合に、さまざまなツールキット導入するなどの環境構築が必要だったが、これらをビルド済みのバイナリの配布を検討しているという。「国内ではWindowsを用いて開発を行っている技術者がかなり多い。そういう意味で、ChainerをWindowsで使いやすくすることのインパクトは大きい」(長谷川氏)。
また、Azureの仮想マシン「Data Science Virtual Machine」は、現在もChainerを利用可能だがやはりインストール作業が必要だ。そこで、Chainerの最新バージョン「Chainer v2.0」とライブラリの「CuPy」をプリインストールし、Data Science Virtual Machineにアクセスすれば即座に最新のChainerを使えるようにしていく予定である。
Chainerは、複数GPUや複数ノードを使う「ChainerMN(Multi-nod)」という追加パッケージもある。PFNは自社環境において、ChainerMNによる分散ディープラーニングで、128GPUを使っておよそ100倍の高速化に成功している。これは、分散コンピューティングのスケーラビリティとしてほぼ理想値に近い。そして、ChainerMNをAzure上で実行した場合も同レベルのスケールアウト性能が得られたという。
これらマイクロソフト製品に対応するための開発は、2017年夏をめどに進められる計画だ。
なお、次回のDeep Learning Labのイベントは2017年7月25日に開催される予定である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 世界を変えるAI技術「ディープラーニング」が製造業にもたらすインパクト
人工知能やディープラーニングといった言葉が注目を集めていますが、それはITの世界だけにとどまるものではなく、製造業においても導入・検討されています。製造業にとって人工知能やディープラーニングがどのようなインパクトをもたらすか、解説します。 - 人工知能は製造現場でどう役に立つのか
人間の知的活動を代替するといわれる人工知能が大きな注目を集めている。ただ、製造現場で「使える」人工知能は、一般的に言われているような大規模演算が必要なものではない。「使える人工知能」に向けていち早く実現へと踏み出しているファナックとPFNの取り組みを紹介する。 - 世界を変える機械学習、1兆個のIoTデバイスを誰がプログラムするのか
MONOistを含むITmediaの産業向け5メディアは、セミナー「MONOist IoT Forum IoTがもたらす製造業の革新 〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜」を開催。同セミナーのレポートを前後編でお送りする。 - 深層学習ソリューションの提供に向けマイクロソフトとPFNが協業
米マイクロソフトとPreferred Networksは、実社会における人工知能や深層学習の活用を推進するため、ディープラーニングソリューション分野で協業することに合意した。 - インテルとPFNが協業、「Chainer」のパフォーマンスを大幅に向上へ
Preferred Networksが、同社のディープラーニング向けオープンソースフレームワーク「Chainer」の開発で、インテルと協業すると発表。インテルの汎用インフラ上で、Chainerのパフォーマンスを大幅に向上させるのが目的だ。 - クラウドのソラコムとエッジのPFNがCeBITで共同デモ、「互いに良い補完関係」
ソラコムは、ドイツ・ハノーバーで開催される国際情報通信技術見本市「CeBIT 2017」に出展し、ディープラーニング技術を開発するPreferred Networks(PFN)とともに共同デモを行う。