食事中に人の存在があるとおいしさが高まる、それが鏡に映った自分でも:医療技術ニュース
名古屋大学は、鏡に映った自分の姿を見ながら食事をすると、1人の食事よりおいしく感じるということを明らかにした。この成果は、1人で食事をしている人の食事の質を高めることにつながるという。
名古屋大学は2017年5月26日、鏡に映った自分の姿を見ながら食事をすると、1人の食事よりおいしく感じることを明らかにしたと発表した。同大学 大学院 情報学研究科 研究員の中田龍三郎氏と准教授の川合伸幸氏らの研究グループによるもので、成果は同日発行の米科学誌「Physiology and Behavior」に掲載された。
1人で行うよりも他人と一緒に活動をする方がその行為の達成効果が増すという「社会的促進」が知られており、食事の場面ではヒトは1人よりも誰かと食事をする方が多く食べ、よりおいしく感じるといわれている。一緒にいる人との関係性やムード(気持ち)、誰かと同じ行動をしていることが影響するみられる。
一方で、日本では孤食の機会が増えている。とりわけ多くの高齢者が1人で食事をしており、その傾向は年々増加している。これまでに、高齢者の生活の質は食事の楽しさと密接に関連していること、高頻度の1人での食事はうつ病と関連することなどが指摘されている。そのため、孤食の問題を容易に解決する方法が求められていた。
同研究では、65歳以上の高齢者と大学生を対象に実験を実施。机の上に上半身が映る縦長の鏡を置いた小部屋と、背景の壁が映っているほぼ同じ大きさの縦型のモニターを置いた小部屋を用意し、各部屋で皿に盛ったポップコーンを好きなだけ食べてもらった。
その前後に、実験参加者がおいしさや好ましさなどを点数で評価したところ、高齢者と大学生のどちらも、壁の映ったモニターの前より鏡の前で食べた方がおいしいと感じ、摂食量も増加した。これは、社会的促進効果に他者は必要でなく、自身の姿でもよいことを示している。
ただし、誰かと同じ「運動」をしていることが、社会的促進の生起に重要とも考えられる。そこで、実験参加者自身が同じ物を食べている姿を撮影し、その静止画をモニターに提示した場合と壁が映っている場合で比較した。その結果、静止画であっても、誰か(参加者自身)が食事をしている姿が映っている方がおいしさが高まり、摂食量も増えた。このことは、「運動の同期」が必要ではないことを示している。
これらの成果から食事中に人の存在を感じることで、おいしさが高まることが明らかになった。これは、1人で食事をしている場合や病室での食事の質を高めることにもつながる可能性があるという。今後は、食事をしている姿の静止画でなくてもおいしく感じるのか、味気ない食品であっても同様の効果が得られるのか、病院でも効果があるのかを検討する研究を計画している。
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