「CeBIT 2017」にみる、ドイツにおけるインダストリー4.0の現在地:IoTと製造業の深イイ関係(4)(2/3 ページ)
脚光を浴びるIoT(モノのインターネット)だが、製造業にとってIoT活用の方向性が見いだしきれたとはいえない状況だ。本連載では、世界の先進的な事例などから「IoTと製造業の深イイ関係」を模索していく。第4回は、「CeBIT 2017」の取材から見えてきた、ドイツにおけるインダストリー4.0の取り組み状況を報告する。
強い産官学連携が生みだすイノベーション
さまざまなIT系展示会がある中で、CeBITの最も大きな特徴は「産官学連携」といえるだろう。同展示会には、「BMWi(ドイツ連邦経済エネルギー省)」「Fraunhofer(欧州最大の応用研究機関)」「DFKI(ドイツ人工知能研究所)」などが大きなブースを複数箇所に設けていた他、ブランデンブルグ州警察やミュンヘン州など、州ごとにも展示ブースが設けられ、それぞれを代表する大手/ベンチャー企業などが出展していた。
ロボット関連の展示が多くある中で、筆者が注目したのは、①MR(Mixed Reality、複合現実)の活用と、②データ流通プラットフォーム構築に向けた動きである。
①MRの活用
最近ではさまざまな場所でVR/ARが活用され始めているが、CeBITの会場で特に目立ったのがMRだ。
VRは、コンピュータ上に人工的な環境を作り出し、あたかもそこにいるような感覚を実現する技術であり、ARは、現実空間にデジタルの情報を付加することにより現実世界を拡張する技術である。これらに対し、MRは仮想世界と現実世界の情報を取り込み融合させる技術を指す。
BMBF(ドイツ連邦教育研究省)のブースでは、マイクロソフト(Microsoft)のヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」を用いてロボット(ロボットアームや工場機器など)を遠隔操作するデモを行っていた。
HoloLensを着用することにより、現地で行われていることがリアルタイムに映し出されるだけでなく、映し出された現実世界の上にバーチャルのボタンまで表示される。HoloLens装着者がそのバーチャルなボタンを押したりあるいはつまんだりといった動作をすることにより、現実世界のロボットの操作が可能となる。
仮に遠隔地の作業員がそのロボットを操作している場合は、その旨が表示されるが、テイクオーバーも可能だ。現地操作と遠隔操作のどちらを優先させるかは事前に設定ができるそうだ。これにより、例えば経験の浅い作業者にとって判断が難しい局面などに直面した場合に、遠隔地にいるベテラン作業員が代わってロボットのコントロールができるようになるという。現実の状況を把握しながらあたかもそこにいるかのように遠隔操作ができることを最大の利点として挙げていた。また、現実世界を投影していることから、VR酔いのような症状が生じにくい点もメリットの1つだそうだ。
②データ流通プラットフォーム構築に向けた動き
BMWiのブースでは、政府機関が積極的なベンチャー支援や産官学連携を行っていた。その中の1つである「Smart Data Web」は、各種SNSやオープンデータなど、さまざまな情報を地図上にプロットし、それらを組み合わせて分析することにより、街で起こっているあらゆる事象を可視化するというものである。
最も分かりやすい利用方法としては、エンドツーエンドの行先案内などスマートシティー系ソリューションが挙げられる。渋滞情報や公共交通機関などの情報と、SNSの情報を組み合わせることにより、よりリアルタイムな街の状況が可視化できる。その他の利用例として挙げていたのが、企業の買収情報や不動産情報だ。企業の買収情報についてはあくまでもサンプルとし、明確な利用用途は現時点ではないとしていたが、いずれにしてもあらゆる情報を地図上にプロットして分析できることを示したかったとしている。
このように、あらゆるデータを集めてそれらを流通させることにより新たなサービスを生み出そうとするデータ流通プラットフォーム構築の動きは、さまざまな国で急速に進み始めている。その傾向はドイツでも同様だ。
ただ、ここには世界共通の課題が複数ある。その1つがプライバシーだ。ドイツは個人データの取り扱いについては特に厳しい国として知られており、基本的に企業は個人のデータを持ちたがらない。仮に収集しても、グループ会社含め一切他社とは共有しない。今回の展示についても、出展者によれば、ニーズはあるもののデータプライバシーの壁が高く、データの収集に苦戦しているという。
もう1つがデータを提供する側のインセンティブだ。オープンデータだけでビジネスモデルを構築するのは難しい。そこにSNSや他の公開データを統合することでサービスを展開しようとする動きがみられる一方で、利用者側からすれば公開データだけでは不十分であり、より深いデータの活用を求める。一方で、データを出す側のインセンティブを見いだしにくく、結果ビジネスモデルが構築しにくい。世界共通の課題であるデータの取り扱いに加え、特に情報の保有に関して厳しいドイツというお国柄上、今後どのようにするかを模索している、としている。
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