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機械の稼働率より人の作業の効率化、優秀な人材は国外からもどんどん呼べイノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(13)(3/3 ページ)

東大阪市にある町工場で、ミャンマー、ベトナム、タイ、ネパールなど8カ国の外国人が働いている。1929年(昭和4年)に給湯器メーカーとして東大阪で創業した三共製作所だ。3代目社長の松本輝雅氏は、中量多品種の製造を効率よく行う独自の工夫と営業力で安定経営を続けている。今回は同社 松本社長の経営哲学を取材した。

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製造業に不足している人材を育てる

 製造業には景気の波がある。上がるときには利益が大きいが、落ちるときはストンとくる。松本氏は経営の安定化を図るため、製造業のベースとなる人材育成を事業のもう1つの柱にしようと考え、経営するグループ会社で海外人材の紹介事業をスタートした。

 前述のように、同社ではベトナム、タイ、ミャンマー、ネパールなど8カ国の人が働いている。外国人を雇用するようになったのは、バブルで製造業が深刻な人手不足に陥った頃だったという。

 1990年、日本の出入国管理法が改正され、3世までの日系ブラジル人とその家族を無制限に受け入れる取り組みが始まった。多数の日系ブラジル人が日本へ出稼ぎにきた。大阪では受け入れる企業がまだ少なかったが、工場を24時間操業するための人手を必要としていた松本氏は20人を雇い入れた。彼らは夜勤も厭わずよく働いてくれたという。

 日系4世になると、雇用ができない。しかし、「技能実習生制度を使えば、東南アジア系の人材も雇うことができる。どこの国がいいだろう?」と考えたときに、松本氏の直感でベトナムに白羽の矢を立てたという。

 ベトナム人は、戦争でたたかれてこれから未来に向かって夢を描いている。日本人と似た気質で、強い主張はせずに勤勉でよく働く。そう考えて視察に訪れた当時のベトナムには、まだ日本人が少なく、現地の人たちと深い交流ができたそうだ。松本流営業術は、ベトナムでも効果を発揮し人脈を作り上げることができた。

 この人脈を見込まれ、大手企業のベトナム進出を支援した実績を持つ。油圧ポンプのピストンで世界シェアNo.1であるタカコやINAX(現LIXIL)ダナン工場も松本氏がコーディネートした。

 2003年からは、経営者を対象としたベトナムやミャンマー、インドネシア、タイの製造業視察ツアーを開始。現地企業や日系企業の工場視察、日系商社や地域有力者との交流の場を設けている。

 しかし、松本氏は自社の海外進出は行っていない。海外に生産拠点を作るとなれば、土地代、設備費などの初期投資は必須だ。中小企業にとって、技術人材の分散化とカントリーリスクが大きい。リスクを取って自社の売り上げ拡大を狙うよりも、「今の日本のモノづくりの環境を改善し、問題点を解決したい」と考えているからだ。

 「今、日本に一番不足しているものは、人材です」と松本氏は話す。少子高齢化や若者の製造業離れなど深刻な問題に直面している中、日本がこれまで培ってきた技術やモノづくりの精神を受け継ぐ人材がいない。

 「国内だけで解決するのではなく、グローバルな視点を持って考え、国外の優秀な若者に技術を伝承するのは意義のあること」と松本氏は語る。

 松本氏は各国の移民制度を研究した結果、「イタリア型の移民制度が日本には適しているのではないか」と考えるようになったという。

 イタリアは移民を語学学校に委託し、語学だけでなく、移民の全体の教育、衣食住一般の指導を行っている。受け入れに応じて、政府もお金を出してくれる。

 「将来、日本も(イタリアと)同じことをやるのではないか」。そう考え、“待ち駒"として2014年に日本語学校を立ち上げた。技術を学ぶ前提として、語学の習得が必須だからだ。

 今は、専門学校を作ろうとしている。日本語学校と専門学校を組み合わせてダブルスクールにし、製造業を教える構想だ。

 モノづくりは体験して、初めて理解し身につく。現場の空気や機械の振動、実際にモノを作る中で得る経験は、机上では伝えられない。リアルな製造の現場を学ぶ学校を目指す。

 日本の技術が優れている点は、量産品の品質が高いレベルで安定していることだ。製造業は、芸術的な一品物を作るわけではない。中国でもアメリカでも、優れた一品物を作ることはできる。けれど、同じものを100万個製造するとなると、不良品が出てくる。

 日本のモノづくりの強みは、量産品を不良ゼロで製造する考え方とそのシステムにある。「うちの会社も、500や1000のノウハウを持っています」と、松本氏は述べる。


「製造業のリアルを教える学校で人材を育てたい」松本氏は力強く語る

 松本氏は50歳を目前にして、経営を学ぶために大学院に入学した。研究テーマは、「金属加工業の成長モデル 」。大手メーカーの海外生産拠点展開や為替問題などの影響で厳しい状況にある金属加工業がどのように安定的高収益を生み出せるのか。成功企業を分類し分析した。技術と技能を明確に分け、ノウハウをくみだしたという。

 朝から晩まで、企業をもっと強くするためのシステムを考え、営業や社員育成を実践してきた。それが実を結び、自社の利益につながった。その哲学を自社の利益のためだけではなく、もっと広くに若い世代に向けて還元したい。

 留学生の教育を通じて、日本の中小製造業の持つ技術の素晴らしさを世界にアピールしていきたい。松本氏は、そう考える。

 もちろん、学校で学んだ留学生たちが将来、同社を支える人材になる日が来ることも期待しているのは言うまでもない。

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製造業 | 人材 | ものづくり


筆者プロフィール

松永 弥生(まつなが やよい) ライター/電子書籍出版コンサルタント

雑誌の編集、印刷会社でDTP、プログラマーなどの職を経て、ライターに転身。三月兎のペンネームで、関西を中心にロボット関係の記事を執筆してきた。2013年より電子書籍出版に携わり、文章講座 を開催するなど活躍の場を広げている。運営サイト:マイメディア


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