ルネサスの「e-AI」が切り開く組み込みAIの未来、電池レス動作も可能に:製造業×IoT キーマンインタビュー(2/3 ページ)
ルネサス エレクトロニクスは、安価なマイコンにもAIを組み込める技術「e-AI」を発表した。同社 執行役員常務 兼 第二ソリューション事業本部本部長の横田善和氏に、e-AI投入の狙い、製品開発に適用する次世代技術などについて聞いた。
「10分の1の消費電力」と「演算性能が100倍」を実現する
MONOist e-AIに対する引き合いはどのような状況ですか。
横田氏 e-AIは、既存の装置や機器にアドオンできることも特徴の1つだ。当社の那珂工場における実証実験では、15年前の装置に付加する形でe-AIを組み込んだ事例がある。この事例がきっかけになって、工場などで現在利用している装置を知能化したいという需要を中心に、国内外40社から引き合いが来ている。第4次産業革命、インダストリー4.0、スマートファクトリーと言っても、新規の生産ラインや装置ならともかく、既存のものを知能化する手法は確立されていない。e-AIは、その突破口になるのではないか。
また「RZ/G Linuxプラットフォーム」で始めた「産業向けルネサスマーケットプレイス」を活用すれば、AIをソフトウェアとして流通させることも可能だ。e-AIを使うメリットは大きい。
MONOist e-AIで利用できるフレームワークは「Caffe」と「TensorFlow」の2つですが、今後対応を広げる予定はありますか。
横田氏 CaffeとTensorFlowを選んだのは広く利用されているものを優先したからだ。ユーザー比率でいけばこの2つで約7割に達する。ただし、国内で有力なChainerを含めて、今後の対応拡大を検討している。e-AIのパートナーも現在の12社からさらに増やしていきたい。
MONOist e-AIの展開を今後どのように広げていく予定ですか。
横田氏 ルネサスの全てのMCU/MPUでe-AIを利用できるようにしていく。また、e-AIが現在の10分の1の消費電力で動いたり、演算性能が100倍になったりするような技術開発も進めている。
MONOist 「10分の1の消費電力」はどのような技術で実現しますか。
横田氏 SOTB(薄型BOX-SOI:Silicon on Thin Buried Oxide)という新たなトランジスタプロセス技術を適用すれば、従来のマイコンよりも消費電力を10分の1以下に低減できる。既にシリコン上でのIP性能実証は完了しており、2018年3月にマイコンとしての試作サンプルを出荷し、2019年3月には量産したいと考えている。
65nmプロセスでSOTBを用いたマイコンを使えば2mW程度の電力でも動作させられる。既存製品の低消費電力化とは桁違いの性能だ。またSOTBはしきい値電圧のばらつきも少ない。このことは、SOTBのマイコンであれば、e-AIを、環境発電(エナジーハーベスティング)レベルの電力、つまり電池レスで動かせることを意味している。
MONOist 「演算性能が100倍」についてはどうしますか。
横田氏 動的に再構成が可能なプロセッサ技術「Dynamically Reconfigurable Processor(DRP)」を適用したいと考えている。これまでのDRPは、特定の顧客が利用しやすかった一方で、広範囲に利用できるものではなかった。しかし、AIに注目が集まる中で、動的に再構成が可能というDRPの特徴が、ディープラーニングの推論を実行するのに最適なことが分かった。消費電力当たりの演算性能は、CPUの100倍、GPUの10倍で、1TOPSの処理能力を数Wの消費電力で実現できる。
2017年内に、評価チップを用いた概念実証(PoC)を行う計画だ。既に具体的な顧客もつき始めている。e-AIを高速実行するオフロードエンジンとしてDRPを展開できれば、当社のマイコンはコグニティブマシン(認識機械)に最も適した製品となるだろう。
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