ルネサスの「e-AI」が切り開く組み込みAIの未来、電池レス動作も可能に:製造業×IoT キーマンインタビュー(1/3 ページ)
ルネサス エレクトロニクスは、安価なマイコンにもAIを組み込める技術「e-AI」を発表した。同社 執行役員常務 兼 第二ソリューション事業本部本部長の横田善和氏に、e-AI投入の狙い、製品開発に適用する次世代技術などについて聞いた。
国内半導体大手であるルネサス エレクトロニクスは、経営危機を乗り越える中で、注力事業を絞り込んできた。現在は、第一ソリューション事業本部が統括する車載事業と、第二ソリューション事業本部が担当する汎用事業が2本柱となっている。
“汎用”とはいっても、FAをはじめとする産業用機器、冷蔵庫や電子レンジ、エアコンなどを中心とする白物家電、複合機、スマートメーターなど顧客は多岐にわたる。そして、これらの顧客を横串で通すキーワードとしてクローズアップされているのがIoT(モノのインターネット)だ。
同社は、2017年4月に開催したプライベート展「Renesas DevCon Japan 2017」において、汎用事業におけるIoT活用の方向性として、政府が推進する超スマート社会「Society 5.0」を基に「スマートホーム」「スマートファクトリー」「スマートインフラ」の実現に貢献していく方針を打ち出した。そこで重要な役割を果たしそうなのが、安価なマイコンにも組み込めるAI(人工知能)技術「e-AI」だ。
同社 執行役員常務 兼 第二ソリューション事業本部本部長の横田善和氏に、ルネサスの汎用事業の方向性や、e-AI投入の狙い、製品開発に適用する次世代技術などについて聞いた。
本連載の趣旨
ITmedia産業5メディア総力特集「IoTがもたらす製造業の革新」のメイン企画として本連載「製造業×IoT キーマンインタビュー」を実施しています。キーマンたちがどのようにIoTを捉え、どのような取り組みを進めているかを示すことで、共通項や違いを示し、製造業への指針をあぶり出します。
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MONOist 汎用事業の注力分野として、スマートホーム、スマートファクトリー、スマートインフラの3つを打ち出しました。これはどういった狙いがあるのでしょうか。
横田氏 3分野に関わる半導体市場の2015〜2020年の年平均成長率は、スマートホームが8.6%、スマートファクトリーが10%、スマートインフラが5.9%となっている。これらの高い成長が見込める分野において、ルネサスはトップシェアを持つ製品が多数ある。例えば、白物家電、FA、電力計、複合機、エアコンなどだ。
これらトップシェアの製品にAIを組み込んでいくことにより、顧客が目指すスマート化を加速させられるようにする。今回発表したe-AIはそのための技術だ。
MONOist 現在のAI技術で特に注目されているディープラーニングなどの機械学習は、HPCやクラウドなどで行うもので、それらと比べて処理能力の低いマイコンなどとは縁遠いイメージが強いです。
横田氏 これだけ注目を集めているからこそ、マイコンのユーザーもAIに興味を持っている。しかし、そのAIをどうやって取り込んでいいか分からないのが現状だ。実際に、ビッグデータを集めてディープラーニングにかけることはできても、その学習結果を製品側に落とし込めないという障壁がある。
e-AIは、HPCやクラウドで実施したディープラーニングの学習結果をマイコンに組み込むための仕組みだ。これによって、AIを組み込んだ製品の商品化が容易になるだろう。今までやりたくてもできなかったことを可能にする画期的な技術だ。
MONOist マイコンにAIを組み込めるということですが、どのレベルのマイコンに適用できるのでしょうか。
横田氏 e-AIに対応するのは、開発環境で「e2studio」を用いる「RZ」「RX」「RL78」「Renesas Synergy」だ。比較的高性能のプロセッサコアを搭載するRZだけでなく、16ビットマイコンのRL78にも組み込める。なお、産業機器向けの「R-IN」は、開発環境がe2studioとは異なるため現時点ではe-AIは提供できない。
一例として、Renesas DevCon Japan 2017の展示ブースで、ディープラーニングによる手書き数字の認識をPCで学習し、その結果を「RX64M」を搭載する評価ボード「GR-KAEDE」に組み込むデモを実演した。そのRAM使用量は19KB、ROM使用量は384KBで、推論の速度も120MHz動作で1秒間に25枚の数字を認識できるという内容だった。
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