身近な電子機器にAIが組み込まれる、ルネサス呉氏「数年先には実現する」:人工知能ニュース
ルネサス エレクトロニクスは、東京都内でプライベート展「Renesas DevCon Japan 2017」を開催。基調講演には代表取締役兼CEOの呉文精氏が登壇し、組み込み型のAI(人工知能)「e-AI」に注力する方針を述べた。
ルネサス エレクトロニクスは2017年4月11日、東京都内でプライベート展「Renesas DevCon Japan 2017」を開催した。基調講演には代表取締役兼CEOの呉文精氏が登壇し、組み込み型のAI(人工知能)「e-AI」に注力する方針を述べた。
呉氏は「よくAIといわれるのは、端末からデータを吸い上げてクラウド上で分析・判断して端末に情報を返すものだ。こうしたサイバー上での学習に対し、クルマや家電、ドローン、工場、ビルなどたくさんの『エンドポイント』が現実世界において、自ら周囲の状況を判断して瞬時に行動を起こす必要も出てくる。これを可能にするのが組み込み型のAIだ」と説明した。このことからe-AIの「e」は、Embedded(組み込み)とEnd point(エンドポイント)、2つのEに由来している。
エンドポイントで組み込みAIを動作させるためには、「リアルタイムコントロール」「セーフティ」「セキュリティ」「ローパワー」という4つの課題を解決する必要がある。
リアルタイムコントロールは応答性を指す。AIが膨大なデータを扱うことで通信容量が不足することにより、0.5秒程度の反応時間が発生すると呉氏は指摘。「0.5秒の世界とはどのようなものか。時速60kmで走行中のクルマは0.5秒の判断の遅れで28m進む。ドローンが時速70kmで飛行していれば60m進むので、配達用であれば家を何軒か通り過ぎることになる」(呉氏)。エンドポイントだけの処理であればAIの反応時間は0.005秒まで短縮できるとし、0.5秒と0.005秒の差の大きさを強調した。
セーフティに関しては自動運転車を例にとり、部品の故障や劣化、AIの認識ミスなどが消費者の不安になっていることを挙げた。こうした不安を軽減するため、さらに高品質・高信頼性の部品や、AIに向けた新たな機能安全が重要になっていくとしている。
IoT機器へのサイバー攻撃が、2015年の541億件から2016年には1281億件に増加していることを受けて、エンドポイントを守るセキュリティの重要性を強調した。「ソフトウェアは比較的ハッキングされやすいがチップの中の暗号技術を攻撃するのは困難だ。マイコンがセキュリティの信頼性の起点になり、不正な改善や盗難、複製から守る。無線でソフトウェアを書き換える場面が増えてくる中で、誤った情報がエンドポイントに入ってこないことも重要だ」(呉氏)。
ローパワーについては「低消費電力」「発熱しにくい」という2つの側面があると述べた。メガワット級のクラウドサーバは空冷や水冷で対応できるが、組み込み型のAIは厳しい電力や熱の制約を受ける。「電気自動車でAIの消費電力が増えれば走行できなくなる。ウェアラブル端末に空冷のファンを付けることもありえない。バッテリーなしの駆動や、太陽光発電のみでの駆動なども必要だ。ただ消費電力を抑えるだけでなく、マイコンの処理速度が上がると、どうしても発熱するという課題もある」(呉氏)。
呉氏は、組み込み型のAIを実現していくために「世界一のソリューションがあると自負している」と自信を見せた。「例えば、わずかな応答時間に対応したモーター制御技術を持っている。品質や信頼性、機能安全については、製品だけでなくエンジニアの心構えもある。セキュリティにはハードウェアの暗号技術が、ローパワーのニーズには低消費電力のマイコンやパワーマネジメントで対応する。パワーマネジメントではインターシルとの補完関係を生かした製品を提供製品を提供していく」(呉氏)としている。
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