低コストなセンサーで完全自動運転を、メンターの統合処理プラットフォーム:自動運転技術
メンター・グラフィックス・ジャパンは、「レベル5」の自動運転までカバーするセンサーフュージョンプラットフォーム「DRS360」を発表した。性能を落とした低コストなセンサーを自動運転システムに組み合わせることができ、自動運転システム全体のコスト低減に貢献する。
メンター・グラフィックス・ジャパンは2017年4月5日、「レベル5」の自動運転までカバーするセンサーフュージョンプラットフォーム「DRS360」を発表した。性能を落とした低コストなセンサーを自動運転システムに組み合わせることができ、自動運転システム全体のコスト低減に貢献する。
センサー側で認識処理を行わず、未処理の状態でデータを収集して統合処理することで、データ転送時の遅延を短縮する。また、複数のセンサーから未処理状態で情報量の多いデータを得られるため認識精度が向上できる。センサー側での認識処理が不要になるため、処理機能を持たない安価なセンサーに置き換えることも可能になる。
既に複数社の自動車メーカーやティア1サプライヤーと試作を始めた。メンターはプラットフォームを提供するのみで「ティア1サプライヤーとして開発するのではない」(米国本社Mentor GraphicsでAutomotive Embedded Sales ChannelのAccount Technical Managerを務める一政貴志氏)としている。DRS360が実装できるハードウェアは半導体各社から供給を受ける。2017年下半期にDRS360を搭載した試作車両を公開する。
レベル5の自動運転とは?
運転の自動化レベルに関してはさまざまな定義があるが、米国自動車技術会(SAE International)と米国運輸省国家道路交通安全局(NHTSA)はレベル0〜5の6段階で分けている。現在発売されている運転支援システムはレベル2までに該当する。
レベル3は緊急時にシステムの要求に応じてドライバーが運転に介入できることが前提となる。レベル4はドライバーがシステムの要求に応答できなくても対応できる自動運転で、レベル5は手動運転の車両が走行できる範囲全てを自動運転で常時走行できるものとしている。
レベルが高くなるにつれて、機能を高度化するためにセンサーの搭載数が増加し、システムがより複雑になる見通しだ。
なぜセンサー側で処理しない?
従来はセンサーが取得した情報はセンサー側で処理した上で、必要なデータのみを運転支援システムのそれぞれの機能に使う、ドメインごとの個別処理となっている。そのため、より高い自動化レベルの自動運転システムでは、センサーごとに処理する時間が遅延となり、高性能なセンサーは認識処理でコストが発生する。
メンターが発表したセンサーフュージョンのプラットフォームは、センサーごとに個別処理を行わずに未処理のデータを集め、FPGAで一括して処理できるようにする。これにより、センサーごとの認識処理による遅延を削減する。
また、未処理のデータを統合処理することにより、認識精度も向上するという。複数のセンサーから個別処理では不要な範囲として捨てられたデータも含めて収集して処理するため、一見すると負荷が増加するが、情報量が多くなることで検知結果の確度を短時間で判定できるようになる。
今回発表したDRS360は高性能なセンサーと組み合わせても開発上のメリットは少なくなるという。認識処理機能を省略した高性能ではないセンサーを有効活用できるため、システム全体のコスト低減も図れるとしている。
ハードウェアは何を使う?
DRS360はセンサーフュージョンを行うFPGA、センサーフュージョンの結果を基に状況を判断し走行計画を立てるSoC(System on Chip)、制御の指示を担うMCUで構成している。センサーの情報は従来と同じようにFPGAに伝送できる。レベル5の自動運転システムを消費電力100W以下でサポートする。
FPGAはザイリンクスの「Zynq UltraScale+ MPSoC」を採用した。SoCとMCUも特定の半導体メーカーが開発パートナーとなっている。パートナー企業は後日公開する。IP(知的財産)のみでも提供する。
一政氏は、センサーのサプライヤーが開発してきた認識処理技術は無駄にならないと説明した。センサー側に搭載していた認識処理技術を、プラットフォームのFPGAに移して活用できるためだ。
FPGAによるセンサーフュージョンと、SoCによる判断機能でハードウェアを分けたのはレベル5の自動運転を想定したため。「レベル5の自動運転システムでは周辺環境に不確定要素が増えるため、使用するセンサーが増加し情報処理量も増える。また、自動車メーカーやティア1サプライヤーが開発中のソフトウェアをSoCを移植しやすいよう、柔軟性を確保する狙いもある」(一政氏)
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