3D CAD用のVRシステムは「事前変換方式」と「変換不要方式」どちらが良いのか?:産業用VRカレイドスコープ(2)(2/2 ページ)
本連載では産業全体のVRの動向や将来展望について深堀りして解説していきます。今回は、3D CAD用のVRシステムにおける、「事前変換方式」と「変換不要方式」について説明します。併せて、前回記事公開後の、産業VR関連の動向についても紹介します。
VR関連、最近の話題まとめ
前回の記事を公開して以降、産業VRに関する動きがいくつかあったので紹介します。
前回紹介したMicrosoft主導のVRシステム規格の名称が「Windows Holographic」から「Windows Mixed Reality」に変更になりました。また「HTC Vive」を発売しているHTC社が上海のスマートフォン工場を売却し、よりVRに注力する方針を打ち出してきました。
さらに韓国のLG電子は、HTC Viveと同じSteamVR規格に沿ったVRヘッドセットを発表してきました。
直接的なVRの話題ではありませんが、「Nintendo Switch」が発売されました。
Nintendo Switchのコントローラーには、「HD振動」という、箱の中のビー玉が転がる感触、コップの中の炭酸水のシュワシュワが感じられる振動を再現する、アルプス電気のハプティックリアクタという機構部品が搭載されています。これによって、触覚提示という表現方法の認知度が世界的に高まり、VRでの触覚提示の要望も急速に高まると思われます。また、試作機がない段階でのVR触覚案件の企画プレゼンの時に、Nintendo Switchを持っていって、「こんな感じになります」と説明できるので、企画を通しやすくなるでしょう。
2017年3月22〜26日まで、フランスで「Laval Virtual 2017」というVR技術の展示会が開催されました。Laval Virtualは既に十数年続く展示会で、1990年台のブームが去った後の世界のVR研究の重要な支柱になってきました。日本からも多数の研究者が出展しています。Oculus Riftで再燃したVRブームによって、わずか3年ほどで数倍以上になったPCの3D表示能力向上の恩恵と、VRへの再注目によって、2017年も前年以上に盛況でした。今回はHoloLensによる展示も複数見られたようです。
こぼれ話:産業用VRに忍び寄る危機、Windows 7問題
日本の製造業界はITシステムについて保守的なため、いまでもWindows 7が主流です。しかし、最新のVR環境の多くがWindows 10を要求するようになってきており、VRでのバーチャルデスクトップなどのいくつかの機能はWindows 10でしか使えなくなっています。安価なVRHMDであるWindows Mixed Rearityが使えるのはWindows 10以降にしか対応しないKabylakeチップセット以降になります。
今後新品で購入するVRノートPCではWindows 7は使えませんし、デスクトップPCでもWindows 7をインストールできるPCを調達できる期間は残り少なくなっています。そして何より、Windows 7の正規ライセンスを入手することが、PC本体の調達より困難になってきています。
現在は、VR用PCの真横に、最小限の能力を持つ社内システム接続用のWindows 7のPCを用意していただき、USBメモリなどでVR用PCとの間のデータのやりとりをする形式でのシステム構築をおすすめしています。その方が既に、VR用PCに無理やりWindows 7を導入するコストより割安になっているのが現状です。
3D CADをご利用の企業様は、早めに社内システムのWindows10対応をお薦めいたします。
Profile
早稲田 治慶(わせだ はるみち)
長野県岡谷市在住の3D設計者。日本で恐らく唯一の製造業VRエヴァンジェリスト。ローランド ディー.ジー.株式会社にて3D CADでの小型CNC切削加工機設計、CAM開発プログラミング、加工機の補正システム開発などの勤務経験を経て、2012年に株式会社プロノハーツに入社。ニコニコ超会議に出展した「ミクミク握手」、産業用3Dプリンタ、「いいね玉」の開発などの後、製造業VRシステムpronoDRのプロトタイプを開発。その後も製造業VRの新技術開発に従事し、CAM講習講師、鳥取県CMXプロジェクトでハイブリッド金属 3D プリンタLUMEXの運用を担った経歴も持つ。さまざまな方式の3Dスキャン技術にも通じ、吉本興業所属タレントのYouTubeチャンネル企画にも3Dスキャンで協力している
関連記事
- ゲーム少年の熱意で生まれたHMDと、Holographicのインパクト
本連載では産業全体のVRの動向や将来展望について深堀りして解説していきます。今回は、これまでの産業VRの歴史と、今後予想される動きについて説明します。 - 「VR=仮想現実感」は誤訳!? VRの定義、「製造業VR」の現状と課題
製造業VR開発最前線 前編では、VRやAR、MRの概要、製造業向けVRの他の分野のVRとは異なる特徴、これまでの状況などを説明する。 - 3D CADで作った3Dデータを生かし切るVRとARの進化
AI(人工知能)と同じく2016年にブームを迎えたVR(仮想現実)。2017年以降、このVRが、製造業や建設業の設計開発プロセスに大きな変化を与えそうだ。AR(拡張現実)についても、「デジタルツイン」をキーワードに3D CADで作成した3Dデータの活用が進む可能性が高い。 - VRヘッドセットは2020年に6000万台市場へ、それでも「ARの方が重要性増す」
IDCジャパンは、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)ヘッドセットの市場予測を発表。世界全体の市場規模(出荷台数)は、2016年がVRヘッドセットを中心に急伸し年間1000万台に達する勢い。2020年にはARヘッドセットの成長も始まり、合計で年間7500万台を超えるとしている。 - 時代はバーチャル! モノづくりの形を変えるVR
設計プロセスでのVR(Virtual Reality)技術の活用は着々と進んでいる。リアルなイメージを試作前に作成、活用することによる効果は思いの他大きいという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.